「はろ、なに?」
「ハロウィーン。一言で言えば南蛮のお盆よ。黄色いカボチャをくり貫いてランタ…提灯作って、それ持って子供みんなでお化けの仮装していろんな家を回るの」
「お化けの仮装だって」
「お化け屋敷みたいになるの?」
「怖いお祭りなのかな」
「脅かして回るとか?」
「それのどこがお盆なんだ?」
「えーと、それから訪ねた家ではみんなでこう言うわけよ。お菓子をくれなきゃイタズラするぞー」
「えっお菓子!?」
「おいヨダレ拭けよしんべヱ」
「むしろハナもかみなさいね、はい鼻紙」
「えー、わざわざ仮装してお菓子だけ? 小銭は?」
「ナメクジさんは?」
「…小銭もナメクジも無理だと思うよ…少なくとも私なら配りたくない。それで、大人は大人でその日にはたくさんお菓子を用意して待ってるの」
「くれなかったら?」
「イタズラオーケー」
   
「「「おおー!」」」
   
「(…忍術学園の先生方がおとなしくイタズラされるとは思えないし、むしろイタズラ返しのひとつもされそうだけどね)」
「楽しそう!」
「やろうやろう!」
「仮装だ仮装だ! なんにする?」
「あとカボチャ!」
「でも黄色いカボチャなんて聞いたことないぞ」
「あ、そこまで考えてなかったわ…まあ別にいいんじゃないかな。この際緑で」
「よーしおばちゃんにもらってこよう!」
「イタズラなんにする?」
「土井先生はチクワだよね」
「それより仮装だよ、お化けってなにがあったっけ」
「じゃあのっぺらぼう」
「からかさお化け!」
「一反木綿!」
「斜堂先生!」
「いや最後の一個は絶対違うから!」
「とりあえず提灯作ってから考えようぜ」
「どれぐらいお菓子集まるかなあ」
「だからヨダレ拭けってば」
わいわいがやがや。
   
「我ながらテキトーな説明だったけど、どれだけおかしなもんになるかな」
楽しそうにあれこれ打ち合わせをしながら長屋のほうへ歩いて行く一年生たちを見て、そういえばオバケの仮装は西洋の種類だよ、と伝え忘れていたことに今更ながら気がついた。
…百鬼夜行みたいになりそうだ。
   
 * * *
   
それから数日経ったある夜、土井先生が胃を押さえながら私の部屋まで苦情を言いにきた。
「なんてこと教えてくれたんですか…」
「いやあすみません、誤解とうろ覚えと言葉足らずの説明が重なってえらいことになったそうで」
なんでも「お菓子をくれなきゃいやがらせするぞー!」(この時点でもうすでに間違っている)とかなんとか叫びながら、ろくろ首やからかさお化けがわらわら出てきた。当然お菓子の持ち合わせなどなかったためお断りしたところ、帰った部屋にチクワやカマボコが山ほど放り込まれていたそうな。
絶叫して部屋から逃げ出したがはたと気付いて踵を返し、は組の皆をとっ捕まえて、余計な入れ知恵した人間の名前を聞き出したというわけだ。気の毒だがこれはこれでおもしろい。今のところ犠牲者は一人だけだと聞くからなおさらおもしろい。
「部屋の練り物は私が片付けますんで、今日のところはひとつ」
「…そうしてもらえるなら。もう本当に練り物は見るだけで嫌で…」
「あとはあの子たちがハロウィーンをこれ以上広めないことを祈るばかりですねえ」
「ま、また縁起でもないことを…ほんとは楽しんでますねこの手の状況!」
「ああすみません、この口がつい本音を!」
   
   
   
土井先生の願いもむなしく、さらに数日後の朝礼では学園長直々のお達しにより「相手からお菓子を奪い取れ! 全学年合同ヘロウィー大会」なんぞというわけのわからない競技が開催される運びとなった。
ハロウィーンからずいぶんと逸脱したその企画、やっぱり一年は組から聞いて思いついたものらしい。
それにしても学園長。せめて正式名称ぐらい確認しましょうよ。