死者の魂は煙に天へ運ばれて行くのだと聞いたことがあった。
ならば、今のこの状況はなんなのだろうか。
手の中で無機質な着信音を吐き出し続ける携帯電話を眺めながら、ブレードはぼんやりとそんなことを考えた。
うっすらと発光するディスプレイにはと名前が記されている。たとえその名がなかったとしても、番号だけですぐに誰のものか分かる自信すらあった。
何度見たところで同じことだ。。ブレードの恋人であり、秘密結社ブタのヒヅメの構成員…末端ではあっても兵器の開発に携わるだけの技術を持つ限られた団員であり、また、ほんの数日前まで存命であった女の名前。
彼女の葬儀は今しがた終わったばかりだ。
バレルが言うには、優秀な団員だったそうだ。自分は兵器のことについては門外漢であったが、細い指が小器用に淀みなく動きそれを作り出していく様は見ていて心地のいいものだった。自分にとっての刃がそうであるように、彼女はすべての火器をこよなく愛していた。ことによれば、恋人であったはずの自分よりもずっと。
ならば、その暴発によって命を落とすという最期はにとってどうだったのだろう。悔いはあったのか。いいや、それともむしろ本望なのだろうか。何か言い残したいことはあるだろうか。聞いてみたいことは山ほどある。
彼女の携帯電話はどうしようか、ずいぶんと悩んだものだ。折って壊してしまおうかと思っては留まり、湖に沈めてしまおうかと思考の片隅をよぎった考えを押さえつけて、結局は当人の遺体を焼く炎の中に紛れ込ませるように、静かに処分した。この数字の羅列はもう誰のものにもならないでほしいと手前勝手な願いを抱きながら。
だというのに、その番号は今なお自分のディスプレイに表示されている。
眩暈がした。
あまりにも唐突な死は、自分でも理解し難いことがあるという。まさかと思いながらも通話ボタンに指がかかる。この目で遺体を確認したばかりの今ですら、まだの声を期待している自分を、声を出さずに嘲笑った。
せめて最後に一言でも愛していると聞くことができたなら、こうも遣り切れない気持ちになることはなかったのだろうか。
震える手が、通話ボタンを押した。
「…ブレード」
そこから聞こえてきたのは、
紛れもなく。
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