「いいかね、間違っても女王陛下に対して粗相があってはならんぞ」
お前じゃあるまいし。
口に出しそうになったが、こんなペーペーでも王室に出入りできる騎士なのだ。有用なアドバイスをくれるかもしれないし黙って受けておこう。
「いいか、よく聞け。晩餐会に出席するために必要なものとは…
 いや…すまん。私は生粋の武人でな、そっち方面にはとんと疎いのだ」
「へえ、あのぺらぺらの実戦経験でか」
「……。」
今度はうっかり口にしてしまったせいで、オワインは見るも無惨にへこんだ。
いや、だって…若くて線が細くてそれなりに美形のヒューランってことで、僕は最初お前を儀仗兵だと思ってたぐらいだぞ。言ったら今度こそ再起不能になりそうだから黙っておくけど…。
「わかった、悪かったよ。今度一日空けて僕の仕事手伝え、お詫びじゃないけどお前に良さそうな実戦の練習台見繕ってやるよ」
「む…それは有り難いが、このあたりは銅刃団が警備を請け負っている。銀冑団が首を突っ込んでは揉めるのではないか」
「ドライボーンのキャンプまで行けば大丈夫だと思うけどな。あの辺はアマルジャ族が多いから、人間同士で縄張り争いしてる余裕なんかないんだよ。それでも面倒があるようなら、いっそグリダニアまで行くのもいいし」
「グリダニアか、行ったことがないな」
「ちょっと見晴らしは悪いけどいいところだぞ。どこを見ても景色が綺麗で、木に遮られる分だけ荒野よりずっと日差しがやさしくて、森が深いから雨上がりには濃い甘い緑の匂いがする」
…僕には微妙に合わない理由があるが、恥ずかしいのでここでは言わないでおこう。
「そうか…冒険者もいいものだな、己の実力次第でどこへでも行ける」
「ああ。休暇でも取れたらどこか旅に出てみるのもいいかもな」
意外に乗り気だったので、一度ウルダハから離れて見識を広めることを軽く勧めてから銀冑団総長室を後にした。
アテにしていたアドバイスはひとつも役に立たなかったので、マーケットで買い物がてらモモディに頼み込もうと思っている。
 
 * * *
 
王宮の晩餐会とは、招待状の代わりに王家から下賜された装飾品を身につけるのが習わしであるらしい。
去年は首飾りで一昨年は指輪。今年のものはきれいな紫の石がついた耳飾りで、さすが王家御用達・彫金士ギルドのギルマスの力作。シンプルなデザインの中に高い気品を匂わせるすばらしいものだ。貯金を崩して新調したプランダードブリオーとコットンのガスキンにもよく映える。
ただの招待状だとしてもこれは素敵だ。晩餐会の後にも大事にしよう。
さて、マーケットボードの利便性のおかげで、華やかな社交界に珍獣出現の報が出ることは避けられたといえるが、いざ着てみるとこういうフリルの多い格好はなんとも気恥ずかしい。何を隠そう普段の僕は板っきれ背負ったねずみ男なのだ。
…なお、モモディには魔法使いが王子様に化けたみたいよとからかわれた。
スカーフェイスの王子様なんていてたまるかと思わなくもなかったが、彼女の気遣いのおかげで緊張は少しほぐれた。
 
 

 
 
結論から言うと浮かずに済んだ。
 
リリ…もとい、ナナモ女王陛下が直々にウルダハの英雄と讃えてくださり思いっきり注目を浴びた時は、あのクタクタのローブで出席しなかったことを本気で安堵した。会場の皆様も、まさか少し運命が狂っていたらあんな珍獣に拍手を送るところだったとは思うまい。
英雄と呼んでくださったのをいいことに美しいご婦人をナンパしようと思っていたのだが、運悪く目的とは真逆のいかつい男…つまりラウバーン局長に掴まり、今はウルダハの内部派閥のなんたるかを聞いている。
結構なところもう知ってるけど、真剣に話してくれているものをぶった切るのも申し訳ないしなあ。
……とりあえず食事と酒は美味い。
「ナナモ様も気丈に振る舞ってはおられるが、気の休まる暇もあるまい…この度の件、ウルダハを代表して礼を言う。感謝しておるぞ」
「何、僕でなくてもちょっとおせっかいな奴ならああしただろ」
「我々には貴様のような冒険者の力が必要なのだ」
「よしてくれよ。そんなに煽てても、のぼせ上がって尽くすほど僕は真面目じゃないぞ」
「いや、貴様のような立場の者には、その謙虚さが貴重でだな…」
なんだかオワイン以外にも妙な誤解をしていそうな言葉を切って、ラウバーンははっと細い目を見開き、人の全身をまじまじと見つめた。
「……その輝きは…」
「え、ああ…これか」
じんわりと光が漏れる懐はさぞ異様だろう。
どこか深い谷底に捨ててやることも考えに入れながら、なんだかんだそういう気にならずに持っていたクリスタルが光源だった。ラウバーンはものすごく驚いているが、なんのことはない。結構ふつうに時々光る。しかも夜だといい具合に火を消費しない明かりになって便利なんだこれ。
この真剣な顔にそんなこと言ったら殴られそうだから黙っておくけど。
 
「もしや、光のクリスタルか…!?」
みたいだな。
「貴様、以前に母なるクリスタル…マザークリスタルに導かれたことがあるのではないか? そう…エーテル酔いに似た感覚を体験したことはないか?」
「あるよ」
「なんということだ…」
 
僕以外にも結構いるんじゃないか?
なお、集落には酒に弱いと男じゃないと言わんばかりの風潮があったので、酒はそれなりに飲める。ミコッテ族の特徴として三半規管も強い。
だからあの独特の気持ち悪さは全く不慣れで、いや正直、クリスタルには悪いけど割とマジでもう勘弁してほしい。
 
勘弁して、くれよ、もう。
 
……そう思いながら、僕はまたしても夢の中に引き込まれた。
 
 

 
 
ひゅうひゅうと耳元で風が鳴る。
晴れ渡った蒼天のずっと遠いところで鳥が円を描いている。
周りにこれといった壁や覆いはなく、遙かな空と自分を隔てる境界は足下の船ひとつきり。
三国を繋ぐ定期飛空便は確かに便利で早いがひどく寒く、また空を飛んだことなどない身にはとんでもなく怖い。
(…でも今は口が裂けても言えないな、これ…)
 
さて、僕は晩餐会でひっくり返ったあとにまた夢を見た。
おそらくあれは噂に聞くカルテノーの戦い。ラウバーン局長と…名前だけは知っていた各国の最高責任者、グリダニアのカヌ・エ・センナ様と、リムサ・ロミンサのメルウィブ提督のシーンだ。
三国のグランドカンパニー、不滅隊に双蛇党、黒渦団。そして異国の冒険者が数多く参戦した特殊陸戦部隊も加わっての、血みどろの戦いの様子。…いや、それは戦いと呼べるものですらなく、ただの冒険者にもわかるほどに明らかな虐殺だった。
衛星ダラガブより現れ大地を火の海と変えた、黒き暴虐の蛮神バハムート。
 
それが夢の全容だ。
その後どうなったのか、僕は知らない。そもそも全員の記憶がない。
話に聞く限りでは、気がついてみれば猛威を振るったバハムートは消え去り、焼き尽くされた大地は元のように緑の息吹を取り戻していたという。エオルゼアのために戦った光の戦士たちと共に、まるで“なかったこと”のように。
そして誰も納得のいかないうちに、カルテノーの戦いは一先ずの終結を見た。
 
真相は今も大いなる謎に包まれたまま。
 
起きてから僕はモモディに言付けを受け、ラウバーン局長の元へ出向いたが、ハイデリンの見せた夢になにか関係があるのかと思えば、案の定、話はカルテノーの戦いの方面に向いた(いや、むしろこういう話になるからこそあの光景を事前に見せてきたんだろう)。
ともかく戦争の終結から五年経ったことを節目として、カルテノー戦没者の追悼式典を行うのだとか。
それ自体はよろしいと思っている。いつまでもどうのこうの死人の年を数えても仕方ないが、思い出して悼むことだって必要だ。
何を忘れても何を失っても、とりあえず僕達は生きていると告げるために。
問題はその後だった。
くだんの式典の取り決めを記した親書を、グリダニアとリムサ・ロミンサまで届けに行ってくれというのがラウバーンからの依頼だ。
僕は二つ返事で受けた。
なにも特別ウルダハのために働こうとか思ったわけじゃない。各国の責任者にお届け物ということは、メルウィブ提督やカヌ・エ・センナ様…つまり夢でご尊顔を拝んだ美女二人にお会いできるということ。
まったく、呪術士になるつもりだったからギルドのあるウルダハを訪れはしたけど、他はあんな美女でウルダハのカンパニーだけ色黒のいかつい男が責任者とは…。
ナナモ様もお綺麗だが基本的に表に出ない立場だし、事前に知ってたら考え直してたかもしれない。
 
閑話休題。そういう次第で、三国の循環飛空便の使用許可証をもらって(なお、ハイウィンド飛空社からのおまけとしてインビンシブル号のミニフィギュアももらった)、まずはリムサ・ロミンサへ飛ぶことになった。
以前辿ったグリダニアまでの陸路の大変さを思えば、一っ飛びというのは大変ありがたい。
あれは呪術士に毛が生えたぐらいのペーペーの頃だ。レンタルチョコボを借りてブラックブラッシュの停留所を抜け、クラッチ狭間を越えて、広大なドライボーンのサバンナを駆け抜けハイブリッジの橋を渡り、勢い任せにウェルウィックの森林を突き抜けて、その途中でコンドルに絡まれた。死にかけながら吊り橋を渡って這々の体でたどり着いたのがキャンプ・トランキル。広い沼地におそろしく強そうなモルボルやアダマンタスが蠢く様を見て、こんなところ抜けられるかと軽く絶望したものだ。
ぼろぼろのナリでもうデジョンで帰ろうかと思ったところ、チョコボ留が「ここからならルート通ってるからグリダニアへ行けるよ」と言ってくれた。
深い森の中をポーターチョコボで駆けながら、グリダニアの緑はこんなに綺麗なのかと感動したのが懐かしい。
 
グリダニアはそんな思い出深い土地だが、今から向かう先はリムサ・ロミンサ。行くのは初めてだが評判は知っている。
青い海に白亜の建物が並び、その光景はリムレーンのベールとも謳われる麗しの海洋都市だ。
きっと女の子の露出度も高い。実によろしい。
 
だが飛んでからしばらく経って気付いた。高所は寒い。
軟弱者を見る目をしないで欲しい。ミコッテ族はだいたい暑い場所に暮らしていることが多いし、僕のいた集落だって気温は高かった。こんな高度で吹きっ晒しになったことなどないのだ。
加えて、ウルダハは砂漠も近い砂と荒野の都だ。そこで暮らせば必然的に薄着になる。
そのままなにも考えず飛空便へ乗り込めばどうなるか…今思えばなんで考えつかなかったのか。
 
リムサ・ロミンサに着いたらまず上着を買うつもりだ。
 
 

 
 
ここで一つ確認しておきたいことがある。
僕は呪術士だ。
「フフ…フフフフ…ハードリーさん、エキュは用意できましたか」
「アッハイ、もうすぐです」
…そのはずだったのになあ。
 
「いいですか、板を金具で留めるだけと思わず、行程のひとつひとつ木材への愛を籠めて作るんですよ…?」
「は、はあ」
いや…そりゃあ植物は生き物だし、愛を持って接すれば成長が早いとか聞いたことあるけどさ…。
ここはグリダニアの木工ギルド。聞いていると陰鬱な気分になってくる笑い声を立てて、なんだかよくわからないが熱烈な木材への愛を語るのは、我らが木工ギルドのギルマス・ベアティヌ先生だ。
なお、彼を先生と呼ぶのはご近所の子供達の影響だ。豊穣の踊りの練習がどうとか言う頼まれごとで知り合った。
一部を逆立てた白髪に色付きサングラスで、珍しいほどパンクな格好のエレゼンだが、中身はこの人ちょっとアブナいんじゃないかと思うぐらいの木工マニア…いや、この様子じゃ樹木そのものが好きでたまらないんだろう。
きっとそのへんをうろうろしているトレント族が彼の前世の姿なのだろうと密かに思っている。
「あと少しですね…フフフ…焦ってはいけませんよ……最後の仕上げに手を抜いては職人失格、いい木工品はできません」
「あの…ハイ…」
…金目当てに始めたとか言えない流れだこれ…。
今更の話かもしれないが、三国それぞれには冒険者のために用意された居住区があり、一山当てた裕福な冒険者が家を買って住んでいる。豪華な装飾品やマイチョコボを所有し、さらにそこでは美しい家具が目を見張るような高値で取り引きされていると聞いて、僕はなるほどと一人うなずいた。
防具やアクセサリーもまあいいが、富裕層をターゲットに家具を売れば金になるに違いない。今から腕を磨いておけば、いずれリテイナーを雇った時にはいっぱしの腕になっているだろうと踏んだ。
故郷ではそこそこに大工仕事の真似事もやった身(というより、ミコッテの集落においてひ弱な男はただの雑用係だ)、ノコギリや金槌の扱いぐらいならと木工ギルドの門を潜ったのが一週間前。
そして今、早々に反応に困っている。
金策のために始めましたとか言ったら、先生の木工ジョークで言うところメープル材のように製材されてエキュの材料にされそうだ。
しかも金目当てで始めたにも関わらず、材料費がすごい勢いで嵩んでいく。
こんなはずでは。
 
「エキュを作り終わったら、次は初歩的な弓矢にかかりましょうね……フフ、ハードリーさん、木工は楽しいですね…」
「はい…」
木工自体は好きな作業だけど、材料費をそこそこ取れる時にやらなきゃただの浪費だ。
一度金を稼いで出直して来るんで、早退していいですか、先生。
 
 * * *
 
…さて、カルテノー戦没者の追悼式典の件は、徹頭徹尾真面目な会話と共につつがなく終わっている。
期待外れというかまあまあ予想通り、美しいご婦人とお近づきになるような展開は一切なかったため豪快に省こう。だいたいお使いに行った先でいい年こいてナンパもないだろう。
そういうわけで一旦用が済んだからこそ、リムサ・ロミンサから飛んだグリダニアではしばしのんびり木材と戯れていられたのだが、果ての見えない金策への道は一旦切り上げて、今度は幻術士ギルドからひとつ頼まれごとを受けることになった。
「バデロン?」
「ええ、その方が腕の立つ冒険者を探しているらしく…とんぼ返りをさせてしまって心苦しいのですが、あなたの腕を見込んでのお願いです。リムサ・ロミンサの“溺れた海豚亭”にいる、バデロンという方に会ってはいただけませんか」
「いや、そう畏まらなくてもせっかく来た仕事だし、やらせてもらうよ。僕も当面急いでしたいことがあるでもないし」
最近では木から形を取り出すのが純粋に楽しくなって、呪具を置いてノコばかり使っていた。このまま行くと完全に木工士になってしまいそうな危機感を覚えたので、一旦やめてそろそろ冒険に出ようと思ったところだ。
ちょうどいい頃合いだろう。
しかしリムサ・ロミンサの“溺れた海豚亭”といえば、確か冒険者ギルドの窓口…ちょうどクイックサンドのような場所であったはずだが。
同盟関係の三国はギルドがあるくらいには開放的で、中でもリムサ・ロミンサは海賊上がりも多い風通しのいいところだ。今更余所者がどうこうと差別されることなんて滅多にないが、それにしても手軽な自国の冒険者に任せないほど…それだけ難易度の高い仕事ということか。
とりあえず、作ったものと木工用作業道具は置いていこう。
 
 

 
 
海の都リムサ・ロミンサ。
まぶしい陽光、青い海と空に映える真っ白な建物、そして…
「目障りよ。あたしに跪いて挨拶するか、うちの子に腕ずくで追い払われるか、どっちがいい!?」
着いて早々海賊に絡まれた。
 
いや、絡まれたというのは適切じゃない。
溺れた海豚亭に行く前に、どこか行ったことのない店に入ってみようと周囲をうろうろして、僕は“永遠の乙女亭”というなんだか可愛い名前の店を見つけた。
そうしたら店の前にいた可愛いミコッテのお嬢さんに呼び止められ、この先に行くつもりならやめておけと忠告してもらったのだが、彼女はこちらが新参と見るや「なら、この辺はウチら紅血聖女団のシマだ。新顔としてローズウェンの頭領に挨拶してきな」と、機嫌の悪い海賊団の頭領に(一応)堅気のはしくれの人間を一人で向かわせた。ひどい。
いや、それでもさすがに逃げることぐらいできたが、のちのち揉め事になるのが嫌で素直に向かった僕にも非はある。嫌々とはいえ絡まれにきたようなものだ。
「海に叩っ込まれたいのかい、さっさとおし!」
「何をじろじろ見てんだいドブネコ野郎! 見せ物じゃないよ!」
「ナメてるとそのボロカウルひん剥いてすっ裸にするよ!」
「……。」
なにここすごく怖い…僕の出身地の狩人達より怖い…。
元気なご婦人はいいものだけど、そこを通り越して凶暴になられるとだいたいの男は尻尾を巻く。
「し、失礼しました、ミス・ローズウェン。この町で最近仕事を始めた冒険者の、ハードリー・ホワイトフィールドです」
僕は躊躇わずに膝を着いて頭を下げた。
こんなところでいらない揉め事を起こしたくもないし、そもそも男になめられたんならどこまででもやってやるが、本気で怒った女性と喧嘩するなんて御免だ。たとえ勝ってもムカつかれるだけだ。
…昔集落にいた時、別のティアがうっかり失言して女性陣から総スカンを食い、取り囲まれて泣くまで罵られたことを思い返せば、頭の一つ二つ下げるぐらいどうってこともあるまい。
今の状況には及ばないがあれも結構トラウマだった。腕力は男の方が強いが、精神は女の方がえげつない。
 
「おや、こいつはなかなか礼儀の正しい子だねえ。あたしらが紅血聖女団と知って挨拶に来たのかい」
「はい!」
気合いを入れて答えると、彼女はとりあえず矛を収めてくれた。
周りの皆さんも口を閉じてくれて大変ありがたい。
(古き良き海賊ってだけのことはあって荒っぽいな、ここに来る前出会った百鬼夜行はもっと近代的で話がわかっただけに…)
そう思ったのを見透かすように、ローズウェン女史はテーブルを叩いて再び怒気をあらわにした。
「ここんとこ獲物の船をライバルの百鬼夜行に奪われてばっかりでね…ああ、思い出したらまたむしゃくしゃしてきた! あたしはすごくがっかりしてんだよっ、あんたにわかるかい!?」
聖女の意味を問いたい。
(すごくムカついてるの間違いじゃないんですかね…?)
紅血の聖女団と百鬼夜行は犬猿の仲だと聞いたし、実際ここに来る前に一仕事任されたことがあるが…百鬼夜行の首領・カルヴァランはこの町では珍しい色黒のエレゼン族で、利になると思えば冒険者にも仕事を任せてくれる、わりと話のわかる人物だった。
…あっちはここまで聖女団を意識してはいなかったようだけど。
とはいえそんなことを口に出してはサンドバッグにされそうなので、僕はそれはもう言葉を尽くして嘆き悲しみ、力一杯同感の意を示した。
ヘタレと呼ばないでほしい。怒ったご婦人の前の男なんてどんな豪傑でもへたれる。しかも頭領も部下も美人揃いなのがまたなおさら迫力を増しておっかない。
「その嘆きっぷり…あんたは解ってくれるのかい…」
はたして、ローズウェン女史は再び怒りを静めてくれたようだ。
「ウチらはガレマール帝国の船なら襲っていいっていう、提督からの海賊の許可を受けてる。だが、うちの船は近海向きの快速船だ…帝国の沿岸まで遠洋航海するには不向きなのさ。おかげで大型船主体の百鬼夜行に遅れを取っちまってねえ…」
一度冷静になったことで当面の悩みが頭をもたげてきたのだろう。柄にもなく迷っててね…と彼女はこぼした。
……こうやって憂いに揺れる表情だけ見てれば、まったく妙齢の美女そのものでなんとも麗しいんだが、さすがにこの状況下で口説きにかかったら海水に漬け込まれて干されて雄ミコッテの干物にされそうだ。
ナンパはあきらめて普通に励ますことにした。
「そう気を落とさずに…そうだな、大型船は遠洋航海にはよくても小回りが利かないでしょうし、無理に縄張り争いをするより、自分たちに有利なシマを拡大するなんてどうです」
ここが踏ん張りどころだと身振りまでつけて励ましまくったが、航海の素人が考えることなんて需要があったのかと口に出したあとで気が付いた。
「あんたもつくづく律儀な子だね…いや…待てよ?」
しかし、奇跡的にも彼女はそこから新しい活路を見出してくれたらしい。
「そうか、ウチらも律儀に帝国のお膝元まで遠征してやることはないね。エオルゼアの帝国軍施設に出入りする補給船を狙っちまえばいい!」
おかげで航路が開けたとローズウェン女史はそりゃあもう喜んだが、こっちとしても地元を仕切る海賊団にいい印象を残せて何よりだ。
だって敵に回したらもうこの近辺歩けなくなりそうだし…。
 
「ああそうだ、それとあんた。礼儀正しいのはいいけどそのお堅い敬語はやめていいよ、へたれのカルヴァラン思い出すからね!」
「……あ、ああ…うん、わかった」
なんだか鳥と獣の中間、昔話のサンバットになった気分だ。
 
 

 
 
「チンタラしてんじゃねえぞ、エッダ!」
「ぎゃははは! 相変わらずエッダはノロマね!」
「ご、ごめんなさい、アヴィ…リーダー。渡されたお金じゃポーションふたつしか買えなくて…これでも走ってきたんだけど…」
「金が足りなきゃてめえの金で買ってこい! ろくにケアルも使えねえお前をパーティーに入れてる意味を考えろ!」
 
ギルティ。
なんだかんだとあったが結局受けたサスタシャ浸食洞の前で、たいへんぎすぎすした感じの悪いパーティーと行き合った。
ヒューランの剣術士と幻術士、エレゼンの弓術士、ララフェルの呪術士という四人の組み合わせで、それ自体は珍しいものでもないのだが、このパーティーのリーダーらしきクソタンk…じゃなく剣術士がでかい声で怒鳴っていたために目に付いた。
最初はちょっと首をひねっただけだったが、第二声ではっきりとした敵意に変わった。なんだこのクソ男は。
向こうにいたエレゼンの爺さんと孫の組み合わせは、自由でのんびりした感じのいい二人組だけに、なおさらトゲが際立って見える。
「ん、なんだお前」
「なにも。騒ぐから目が行っただけだ」
「お前も冒険者なのか…」
「だったらどうした」
僕はわざと口数少なに素気無く告げて、アヴィールとやらの目を正面から見返した。
別に人のパーティーにどうこう首を突っ込むいわれはないが、そっちがやるならいつでもやってやるぞ、と示して。
「チッ…負けてられるか! ここは俺達が解決するんだ!」
「…お好きに」
目に見えて苛ついたアヴィールを後目に、僕はさっと踵を返してイエロージャケットの警備兵のほうへ向かった。
ふん。紅血聖女団の恐怖を思えば、この程度のガン付けでいちいち尻尾巻いてられるか、腰抜けめ。
 
「アヴィール…ごめんね、今から新しくポーション買ってくるから…」
「遅えんだよ! それよりてめえはケアル使えるようになれ!」
 
……なんであんなのがもてるんだ…。
 
 * * *
 
気を取り直して、依頼の概要はこうだ。
ここへ来るまでに通ったエールポートの近海には、幻影諸島と呼ばれる島がある。死霊がうろつくだの伝説のセイレーンが出るだの、これがなかなかろくな噂のない場所で、昨今その近くで目撃されている不審船の存在から、イエロージャケットはその付近に海賊の拠点があると睨んでいた。
そして時を同じくしてここ“サスタシャ浸食洞”に不審な男達が出入りしていると報告があった。
リムサ・ロミンサはサハギン族と長く敵対しているが、中には彼らに荷担する者もいて…かつ、今回目撃されたのはそういった連中の一派、海賊団“海蛇の舌”の人間という可能性があるのだとか。
「なるほど、不審者っていうのがその辺の浮浪者あたりならまだしも…」
「うむ。海賊やサハギン族であった場合、近隣住民に混乱を呼ぶことになる。急ぎ調査してもらいたい」
こんなところにわざわざ浮浪者が住むとも思えないし、海賊団か蛮族か…下手をすれば両方なんてセンもあり得る。習慣としてポーションもエーテルも多めに準備してあるが、覚悟をして行こう。
サハギン族にはまだ会ったことはないが、ものの話によれば二足歩行の魚みたいな姿をしているんだとか。
 
「……。」
「どうした」
「いや、なんでも」
近くでアウラの少女が焼いてるグリルドトラウトの匂いが気になって、なんだかサハギンもうまいかも知れないと思えてきた。
ミコッテとサハギンではわりとシャレにならないので、昼を済ませてから向かうつもりだ。
 
 

 
 
「…グリダニアか…」
「…新しい仕事に興味あるんだろ」
「そりゃあるけど」
またとんぼ返りか。
いや、もらう仕事に迷惑はないし、受けるけど、交通費ぐらい支給してくれるんだろうな。
 
サスタシャ浸食洞の調査を終えてリムサ・ロミンサへ戻り、溺れた海豚亭のバデロンにその旨を報告すると、今度はグリダニアの窓口カーライン・カフェで受注できる仕事があると聞いた。
「テレポは金かかるし、使用許可は下りても飛空艇だってタダじゃないしなあ…くそ、アラグ貯金少し崩すか」
グリダニアで木工の修行に金を使ったのが痛かった。
「まあそう言うなよ、サスタシャもあれだろ、海賊と蛮族を向こうに回したヤマだったそうじゃねえか。立て続けに難度の高え仕事をこなしゃもう、三国で引く手数多ってやつだぜ」
「そうなんだよなあ。危ない仕事は実際の実入りがどうとかより、顔と名前を売れるのがでかいよな」
「それにほれ、窓口はエレゼンの別嬪さんだって言うだろ。一丁いいとこ見せてやれよ」
「ああ、あの男言葉の。実は僕もちょっと気になってた」
カーライン・カフェのミューヌと言えば、三国の冒険者ギルドを回っている冒険者の中で密かに人気のあるエレゼンの女将だ。男兄弟の影響なのかもしれないが、妙齢のご婦人ながら柔らかい感じの男言葉と、一人称の「僕」、そこに持ち前の女性らしさが合わさって実に可愛らしくなっている。
同じ冒険者の顔役でも、目の前のむさいおっさんとはえらい違いだ。
あと一人のモモディ女史も勿論かわいい人なんだが、惜しむらくはララフェル族。彼らはそれ以外の種族の視点だとどんな爺さん婆さんも子供にしか見えず…そういう意味合いでの「かわいい」なのだ。僕はララコンの気はない。
(…ベスパーベイの中央広場に建ってるでかいロロリトとかな…)
僕はまだ本物を見たことはないし、二回ばかり巻き込まれて殺されかけたが、それを差し引いてもこれだけはわかる。絶対美化がでかすぎるだろう。あんなかわいいわけあるか、誰が作ったんだあれ。
閑話休題。
危険なヤマをこなして美女にいいとこ見せたいという、実に「男らしい」理由でもって、僕は再度グリダニアへ向かうことになった。
なんでもサスタシャが調査であったのに対し(実際は海賊とサハギン族を向こうに回した危険度の高いものだったが)、まだ細かいところは聞いてないが、今度はどこだかに住み着いたたちの悪い集団を追い払う掃討作戦なんだとか。
 
つまり最初から腕ずくで語れるということだ。たいへん結構。
 
 

 
 
「よっ、しばらくだな!」
「またお前か」
 
サスタシャ浸食洞、タムタラの墓所、そしてついさっき終わったばかりのカッパーベル銅山。立て続けに依頼をこなしてやっとウルダハに帰ってきて、すぐに見たのがこいつのイケメン面だ。なんだか腑に落ちないものを感じる。
まあ正確には最初というほどではない。
美しいご婦人が店から肉を盗んだと言いがかりをつけられて、たちの悪いチンピラに絡まれていたので、ここはナンパを…いやいやクイックサンドでお食事でも…もとい、助けを求めるか弱い貧民を放ってはおけず、男どもの尻を焼いて追い払ったのはついさっきのことだ。
銅山で見られるものといえば炭坑に封じられた巨人族ばかりだったし、帰ったら帰ったで屈強なルガディンや珍妙な髪型の悪徳商人のごつい面がお出迎えでは、男としてはなんとも気持ちがささくれ立つ。思わず呪具を操る手にも力が籠もるというものだ。
…なお、モグラ肉のご婦人は丁寧に礼を述べて去っていった。
……いいんだ。あのチンピラ共じゃあるまいし、無理強いするのはみっともないし。
「はは、そう嫌な顔をしないでくれよ。よっぽど嫌われたみたいだな」
「わかってはいるんだな」
お前僕の話を冗談か何かだと思ってないか。並んで歩きたくないレベルだぞ。
 
「そう言わず。俺は君がウルダハを出てからの行動をしばらく見させてもらっていてね」
「え、なにそれ怖い」
「使者としての謙譲な振る舞い、危険を省みず困難に挑戦する前向きさ。自分の利益を顧みずに自己の力を尽くす献身の心…困った人を助ける正義感。
 どれも冒険者として十分な素質の持ち主だ」
「……あの…ごめん、もう行っていいか?」
「なんで」
そこまで持ち上げられるとマジで怖いよ!
呪術師ギルドのヤヤケさんじゃないが僕はわりとドン引きした。
詐欺の手口だとしたら実にへたくそだ。幸運の壷とか金運の良くなるアクセサリーなら買わないし、リンクシェルでもとの集落のヌンだって名乗る人を出しても騙されないからな。
だいたい僕は別に何か大したことをしてるわけじゃないだろう。
仕事を選べる余裕はないからとりあえず受けるし、困った人は助けないと後々寝覚めが悪くなるし、そもそもそうしなきゃ自分の身が危ない場面だって多い。今だって巻き込まれただけだ。ついでに一国からの使者として行った先でそんな、目立つほどの不作法をやらかすウスラバカがいたらかえって見てみたい。
「まあそこも重要だが、何よりも君の持つ“超える力”。今まで見てきた幻がいったい何なのか、興味はないか?」
「…ないこともないけどさ」
「俺は君と同じ力を持つ人を知っているんだが。一緒にある計画を進めていて、そのために君の力を借りたいと…」
「うっわ」
「えっ」
 
ほらみろやっぱり詐欺じゃないか!
思った通りだ、絶対に儲かる商売に数万ギル投資すればちょっと後には何十倍になって返ってくるとかそういうアレだろ、ウルダハにはよくある手口だ。僕は詳しいんだ。
 
「そうしたら俺達は、君が冒険者として活躍するための手助けもできる」
 
嘘つけ。
ついて行ったら最後うまいことばっかり書いてある契約書にサインさせられて、過労死するまで低賃金でこき使われるんだろ?
 
「……なあ、君なにかよからぬことを考えてないか?」
お前ほどじゃないよ。
とりあえずここは話を合わせておいて、クイックサンドに戻ったらモモディに相談しよう。それと馴染みの情報屋に調査を頼んで、なんとなれば少しウルダハから離れることも検討しておこう。
「おい、聞いてるか? 俺達は暁の血盟団といって、正義の味方みたいなものなんだって…」
 
ふーん、そう。
ものは言いようって言葉があるよな…。
 
 

 
 
「お話を聞いてくださってありがとうございました…さようなら」
しっかりした足取りで、エッダと名乗った幻術士は去っていった。
 
僕は咄嗟にその背へ、口に馴染んだ短い祈りの文句を唱えた。
ろくに会話もしたことはない人物だ。向こうは自分など覚えられていないと思っていたのだろうが、僕からすれば彼女は印象が深い。
アヴィールと呼ばれていた感じの悪いリーダーは死んだのだという。
最初はリムサ・ロミンサのサスタシャ浸食洞。その次はグリダニア…あの陰気なタムタラの墓所から帰った時だ。最後まで嫌な空気でパーティーが空中分解する現場を、ああいうやり切れない別れもあるのだとミューヌが示した。
しかし仲間の口からはっきりと聞かされるとさすがに堪えるし、地上の喧噪から離れたザル神の膝元で、せめてゆっくり眠れればいいとも思う。
…いけ好かないやつではあったが、死んだと聞いてまさかざまあみろと笑うほど根性はねじくれていない。
呪術は葬送の儀式から発達した魔術ゆえに、術士は大体死者への敬意が強い。荒野で見つけた行き倒れの死体にいちいちチョコボを降りてまで弔いをしてしまう…などというやつの割合は全職中トップだ。冒険者を引退した後に墓守になるケースも多い。
アヴィールの首はちゃんと埋めて眠らせてやったのだろうか。
それだけが心配で、僕は僅かの間エッダの去っていった扉を見つめていた。
 
モモディが言うとおり、冒険者をやっていると色々な顔を見る。
たった一瞬見合わせてもう二度と会わない顔。縁あって長く見続けることになる顔。野心の半ばで消えていく顔。舞台を降りたと思えばいつの間にか裏方でしたたかに笑っている顔。
(ドールラス・ベアーも逸りすぎて死んだんだっけ)
やはり数度行き合っただけの、こちらは感じのよかったルガディンを思い出す。
エオルゼア全土に名を響かせてみせると豪快に笑っていたベテランの彼は、知らない間に死体になってカッパーベルの銅山から運び出された。
 
そんなことが立て続けにあれば、誰でも一度は願う。せめてあの時の優しいあいつは無事であるようにと。
(…エレゼンの爺さんと孫娘は、元気でいるといいな)
 
 * * *
 
「ねえ、ハードリー…」
「なんだい」
「私はあなたのそういう慎重なところ、すごくいいと思うわ。時には臆病なぐらいじゃないと冒険者はやってられないって解ってる」
「ありがとう、呪術ギルドでもそう言われた」
「でもそれを踏まえて、暁の血盟団は怪しくないから行ってみて大丈夫よ?」
「…何かあったらこの店ごと不滅隊に通報するからな?」
「ああもうっ! 私がもし詐欺グループならあなたみたいな面倒な人絶対狙わないわよ、早く行きなさい!」
「絵に描いたような詐欺の手口だぞ、警戒するに決まってるだろ!」
 
エッダが帰った後。
別にそのまま無視してもよかったが、一応モモディ女史に「暁の血盟団」という得体の知れない組織についてお伺いを立てたところ、彼らの拠点のあるベスパーベイに行ってみてはどうかと誘われた。
町の顔役だから信用できる、名前の売れてる人物だから大丈夫だろう…なんて暢気に安心していると異次元から刺されるのがこの魔都の常識だ。二つ返事で受けるようなバカをやるわけもなく、僕は粘りに粘ってモモディを怒らせ、しまいに尻を蹴られる勢いでクイックサンドを叩き出された。
「…チョコボポーター、ホライズンまで…」
「はいよ、只今……ありゃ、お客さん、元気ないけど大丈夫かい? 具合悪いんならチョコボは揺れるから止したほうがいいよ」
「ありがとう、大丈夫だ。体調が悪いんじゃなくて割とマジで行きたくないだけだから」
「…何があったか知らないけど、男は諦めが肝心だよ」
チョコボ屋のミミグンは親切だった。
 

 
曰く、少し前におかしな夢を見た。それを旅先で話したらこの場所を紹介された。
曰く、受付のタタルさんの持っていたノートには有望な冒険者の名前がびっしり連なっていた。この砂の家には他にも強い冒険者が山ほどいるらしい。
また曰く、ミンフィリアという女に「自由に蛮族や帝国と戦ってかまわない」とスカウトを受けた。
 
なるほど。怪しい。
 
「…とはいえ、先に入ったあんた達は確たる被害を受けていないし、直ちに害があるってものでもないと見ておくべきか」
「おう。まあ将来的にどうなるかなんざァわからねえが、少なくとも今の俺達は悪ぃようにはされてねえな」
「そうだねえ、強いて言えば、あのミンフィリアって盟主の人使いが荒いぐらいよね」
「違いねえや」
隻眼を細めて、アバと名乗った壮年のミコッテは笑った。
「まあ警戒するのもわかるよ。ブラックブラッシュで勧誘してきた奴なんてそりゃあもう訳わかんないことブツブツ言ってるばっかりでさ、あと少しでぶん殴るところだったわよ」
「なんだそれ」
「ああ、俺も入った時に会った。フード被ったエレゼン野郎だろ」
金属鎧を着込んだエレゼンの美女がオリ、その横でなんだか所在なげにしているのがアレンヴァルドと名乗った派手なフェイスペイントの男。
金髪に褐色の肌と珍しい組み合わせをしているが、話を聞けば帝国とアラミゴのハーフなのだとか。
帝国といえばもう言わずと知れたエオルゼア中の敵。アラミゴは帝国の近くにあったが故に真っ先に侵略を受け、抵抗適わず飲み込まれて属州にされた国で…今は少数が南ザナラーンに逃げ延び、リトルアラミゴという小さな集落を作って暮らしている(確か不滅隊のラウバーン局長もアラミゴ人だ)。
その二つのハーフだ、どんな経緯で生まれどのように育ってきたのか、人並みの頭をしていればなんとなく察しがつくというもの。
(暁では帝国を敵としながら、そういう奴も差別せずに取ってるのか…)
サンクレッドはヒューランだが、ここの連中に聞く限り団員の種族はばらばらで、ある程度の力とくだんの体質があればどんな種族もスカウトしているのだろう。
(一先ずは詐欺グループでもカルト宗教でもないか。モモディがパイプ役を務めていた以上、冒険者ギルドにもかなりのところ食い込んでいるんだろうし、エオルゼア全土を股にかけて活動する組織なら、各国グランドカンパニーにもある程度顔が利くと見ていい)
今のところ特にやりたいこともない身だ。頑張って貯めた貯金が崩れるならまだしも、こき使われてやるぐらいならかまわないか。
「…よし、そろそろ盟主に会ってこようかな」
「おっ、ハラ決めたね。行っといで行っといで」
「まあお前なら落とされるこたァねえだろ、そこそこ強そうだ」
「そりゃどうも。本決まりになったらかわいい後輩に酒でも奢ってくれよ」
「なめんなバカ野郎、てめえで言い出す新入りがいるか!」
 
上層部がどんな奴らかはまだ知らないが、少なくとも受付のタタルさんや現場組の連中とは仲良くやれそうだ。