あら、一見のお客様ですね。いらっしゃいませ。
こちらは…ええ、たしかに承りました。きちんとした紹介状をお持ちでしたら、本日すぐにでもお遊びいただけます。お席へどうぞ。
よろしければ当店のコンセプトからご説明いたしますが、どうなさいますか?
かしこまりました。ではこちらのお席へどうぞ。
高品質の茶葉が入荷しておりますので、紅茶をお飲みになられる間、わたくしが当店の基本的な遊び方などを説明させていただきます。
最初に、ウルダハの法に獣人排斥令があることはご存じと思われますが、やはりこの都市ですので、いわゆる「ふつうの」男女のサービスに満足できないというお客様は大変多くいらっしゃいます。
当店はそのような方が、遠い他国に出向く必要なく、種々さまざまな獣人・蛮族とのふれあいをお楽しみいただける、秘密クラブというわけでございます。
まずパンフレットをどうぞ、こちらに添ってご説明いたします。
個室の客席からこう、眺めていただきますとこの通り。
獣人たちは中央スペースの大部屋で各々好きなように過ごしております。普段の姿を見学できるシステムになっておりますので、誰かがお気に召しましたらわたくしをお呼びください。
料金はこちらに記載されております通り、入店から見学までは通常料金、指名やオプションやお部屋の準備などからその都度追加料金が発生いたします。飲食物やいわゆるお道具の持ち込みなどは禁止ですが、差し入れは可能ですので、もしお持ちの際はフロントへお申し付けくださいませ。
個室へはご指名の獣人が案内を務め、そちらは顔見せといいますか、アピールタイムとなります。
次にこちら、いわゆる本番行為に関する事項です。
ご存じのように、蛮族や獣人と呼ばれるさまざまな種族は、生殖方法がヒト種と大きく異なる場合がほとんどでございます。こちらから説明は済ませており、また程度にもよりますが、基本的に嫌がることは避けていただけますようくれぐれもお願いいたします。
非合意でのプレイももちろんですが、体格差の激しい種族に対する本番行為の強要も厳重注意から店外退去、重い場合は永久出入り禁止処分もございます。お気をつけください。
過去無茶なご要望を通そうとなさったお客様は、あそこの…ええ、黒いスカーフのイクサル族です。彼に一喝されて叩き出される事態になられましたが、逆にその荒々しさに首っ丈になってしまわれ、今はすっかり常連になられました。
本番以外にも需要があるのか? ええ、もちろんですとも。
当店は獣人とのさまざまな触れ合いを楽しみたい老若男女のための場所でございますので…例えばただただアマルジャ族の戦士と手合わせをしたいというお方、先にも申しました親分肌のイクサル族に厳しいお説教をしてもらいたいという方…本番無しとなると、おひとりで励まれる姿をシルフ族の無邪気な瞳で見つめられたいとおっしゃる方なども…いえ、一例でございますので詮索はどうかご遠慮ください。
あとはこちらにも記載されておりますが、身体のどこかに赤い飾り物をつけております獣人は、休日にこちらへ遊びに来ているメンバーになります。もちろん指名はできますが、料金は多少割り増しされます。
その時の指名状況はフロントで確認できます。わたくしをお呼びくださってももちろんけっこうですので、ご活用くださいませ。
…わたくしですか? まさか、とんでもない。
肌の露出は景観上のアクセントといいますか、インテリアのようなものとお考えください。
このウルダハでふつうの女をお望みでしたら、大枚を叩いてわたくしごとき卑女に手をつけるよりもっとお安く、もっとおきれいな女性が買えることでしょう。
せっかく当店へいらしたからには、まずは各種族たちとの触れ合いをお楽しみいただけますよう、重ねてお願い申しあげます。
どのみち彼らの魅力にはまり込むにつれ、だいたいのお客様は女の肌の露出ごときどうでもよくなって参りますので…。
いえ、なにも。空耳でございましょう。
それでは、わたくしはそろそろおいとまいたします。お客様のお心に添える、強く愛らしいお気に入りが見つかりますことを。
お勧めですか? そうですね…一見のお客様ですので、マイルドにアナンタ族などいかがでしょう。今さきほど入って参りました、あちらのクッションの…ええ、尻尾にサファイアの装身具を付けた彼女ですね。
名をパドマと申しまして、蓮花の名に相応しくすばらしい舞姫です。あのしなやかな肢体をくねらせて踊る姿は、男女を問わず何人ものお客様を虜にしておりますよ。
彼女にする…それはそれは、ご指名ありがとうございます!
ただいまお部屋を準備いたします。軽食やお酒、オプション等の別メニューをご覧になって少々お待ちくださいませ。
お客様のこの出会いがより良きものになりますよう。
* * *
「おつかれさま、ナトラシオ」
「つかれてないでふっち。アイツまたあのよくわかんないのして帰ってっただけでふっち」
「…うん」
「あたぴはいいけど、あんなの見てるだけできれいな糸やミルクルートくれるとか「トカイ」のヒトはなに考えてるでふっち?」
一応私から説明はしてあるのだが、人間の自慰は大半のシルフ族にとって「よくわかんない」とぶった切られた。
それはそうだ。
聞いたところによればシルフ族は種子から生まれるというし、まして生殖ならともかく自慰行為。我々ヒト種だって決定的に姿の違う種族が、目の前で自分にない器官とか触ってても意味はわからないだろう。
「シュー…そう言ってやるな、ナトラシオ。ウルダハ人は忙しい、疲れているのであろう」
「左様。ヒト種と我々は抜本より異なる。奇々怪々、摩訶不思議と思えども、韋編三絶の志を持って学ぶことこそ肝要」
アナンタのカーンティ、アマルジャのガザム・ラーがフォローを入れてくれる。ヒトへの興味と好奇心でこの店に志願してきた二人は、私以下ヒト種との架け橋になってくれることが多く、たいへんありがたい。
ありがたいのだけどこの場合の議題、自慰。
「まあでも、いやじゃないならこの場合は問題ないってことで…マルつけておくからね」
「ないのでふっち」
「ならよかった。いやだと思ったらすぐに言ってね」
定例報告を終えるとナトラシオはふわふわ飛んで、ガザム・ラーの頭の上に陣取った。
本人いわく特等席。
「む…」
「いい眺めでふっち!」
こちらから見れば誤差でしかないが、ガザム・ラーは同種族の中でも体格がいいのだそうで…そんなガタイのアマルジャ族が、頭上で満面のどや顔を披露する小さなシルフを退かせずにいる姿は妙にかわいらしい。
常連客の中にもこの組み合わせのファンは多い。納得である。
「おうおう、次はオレ様だッァ!」
「あ、はいはい、ファゼルのアニキ」
「わたーしは、そのつぎーね。おやつ持ってくるーよ」
「ジャジャルンもいくっちゃ、いっしょ、いくっちゃ!」
「いいよ、いってらっしゃい、でもなるべく早く戻ってね」
「あ、僕は最後でいいですよ。これまとめますね」
「ごめんねフウガくん、いつもこっちの仕事手伝ってもらっちゃって。手当弾むからね!」
何度も何度もやっているといえど、定例報告は毎度わたわたするのが常である。これも種族ごとに時間を決め、おのおの分ければ統制は取れるだろうが、皆がこうして全員一つ処にまとまって話したいと言うので従来のままだ。
こちらは面倒になるが、仮にあんな奴ら顔も見たくないと言われでもしたら私はたぶん泣く。
それを思えばこの際手間くらいはかまわない。
ここはウルダハ地下の獣人クラブ。
の、はずだが、まとめ役の私からしてみれば、なんだかかわいい就学児童の群れを世話しているような気分である。
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