「破壊神さま、折り入ってお願いが「だが断る」
「秒殺にも満たないコンマ一秒否定! は、話ぐらい聞いてくれたっていいじゃないですか!」
「頼み事って言う時は大概ろくなことじゃないでしょ」
「そんなことはありません、水商売だからといって差別はいけませんぞ」
「帰る!」
どこの風俗店で客を取らせる気かと思ったら、ちょっと前に開店した「すなっくリリス」の話だった。最初にそれを言え。
なんでもリリスが言うことを聞いてくれないらしいが、そりゃあの子たちは気まぐれで知られた悪魔族。従順であることを期待するのが間違っている。萌えポイントが丸潰れだ。
「そもそも一ヶ所に集まってくれないとか、それは魔王に威厳がないんじゃないの」
「そのものズバリなことを言わんでください…そこでですね、破壊神さまのツルハシスキルを使っていただきたくて。ほら、この間手に入れたでしょう。アレですアレ」
「ああ、あのめんどくさい取説のついてたやつね」
ごめんあれまだ読んでない。
言ったら魔王は顔を覆って泣き出した。
「破壊神さまはなぜそういつもいつも、説明書と名のつくものをかたくなに読まないのですか!」
「い、いやいや誰が読まないとか言ったのよ、まだめんどい箱に保管してあるだけで」
「あからさまに読まないでしょ箱の名前からして! どうせ溜まったらこんなのもあったけどもういいやーとかなんとか言いながら、ガムテープかなにかでまとめて資源ゴミにポイでしょう! 魔王のマブタの裏にははっきりと見えますよ!」
「なんで私の行動パターン知ってんの?」
「やっぱり! 絶望しました! 破壊神さまのザツさ加減に絶望しました!」
閑話休題。
説明を聞くと例の「ワンダーツルハシ」のスキルは発動した場所に特殊な旗(フラッグ)を立て、その周囲に魔物を集める効果なのだとか。さすが魔王だ。取説いらず。言っちゃったらまた泣きそうだから口には出さないけど。
「だいたいですね、今流行りのねこカフェならモフモフ的な追加効果がありますからまだしも、リリスやレディはヒトガタです。ワガママ気まぐれ小悪魔キャラだけでは限度があるのですよ。ぶっちゃけ今はデレが足りない! となれば破壊神さましかいない、そうでしょう!」
「はあ…まあ、やるけどさ」
「そう言ってくれると思ってました! あ、それからぜひコレでお願いします」
「なにこれ」
「破壊神さまの衣装です。いやーそのマガマガしさ案外需要がありましてな、連れてきてくれとお声が掛かることもしばしば。顧客のニーズに素早く応えるのが当店のウリですので、ちょっと一緒に来ていただければと」
「…それはいい。厳密にはあんまりよくないけど百歩譲っていい。ただこの衣装はなにごとだ。単に今着てるツナギの色違いじゃないの」
「ただの色違いではありません。行こう魔物とワーク魔ン♪の新色、闇色ブラックですぞ?」
「もうそろそろこのツルハシであんたの頭をかち割ってもいい頃合いだと思うんだけど、どうかな」
「ぜ、全年齢でグロ画像はまずいですぞ! だってツナギとメットとコンバットブーツと軍手、プラス首からタオル下げてない破壊神さまなんてただのツルハシ持った人じゃないですか!」
どうも魔界には『破壊神萌え』とかいうのがあるらしい。
なににせよ魔王があんまり頼むのでめんどくさくなって、カーキ色から黒のツナギに着替えて、ブーツも同色で全身真っ黒に揃えた。
手袋も黒革のちょっと高いのにした。
「おお、よくお似合いです破壊神さま!
…いやはや、これでアクセサリーやら金具やらがジャラジャラついてたりしたらとんだ厨二病ファッションですな」
「…魔王ってのもなかなかの厨二肩書きだって知ってた?」
見交わした笑顔が同時に引き攣った。