「好い人ができたって本当?」
「えーと…あの、ハイ…」
「あら、歯切れが悪いわね」
「ねえねえどんな人? カッコいい?」
「あなたが選んだなら、まさかおかしな人ではないと思うけど…」
柔らかなステンドグラス越しの光が心地いい、昼のカーラインカフェである。ちょっとした用事でグリダニアに向かったらメ・ナーゴにばったり会って、お茶をしようと誘われてついていったら暁の女性陣三人が待ちかまえていた。
…頭から見事に罠にはまった。
油断していた。まさか彼女が私をたばかるとは。
「いやそれはその、かっこいいと言えば言えなくもないんですが、なにぶんあまりうまく言っているとは申せませんで…えー、詳細はお聞かせできず…」
リセとアリゼーは顔を見合わせてニヤニヤしているし、ヤ・シュトラはいつも通りクールな表情でありつつ完全に逃がさない位置に陣取っているし、メ・ナーゴも言葉少なだが興味津々の笑顔でこちらを伺っている。
ゼノスに追いつめられた時より厄介だこれ。
「いまやエオルゼア全土の注目の的のあなたに好かれて、迷惑な男がいるとは思えないけれど」
「そうですよ、武功を抜きにしてもこんなに綺麗な人なんですから」
ありがとう、迷惑とまではいかないまでもたぶん遊びくらいにしか思われてない。
第一ふつうの£j関係であれば、今までも各地で後腐れない程度に遊んできたことだ。今更困る話でもないのだが、今回ばかりはどこをどう切り取っても真顔で反対される要素しかないではないか。
「じゃあ名前は聞かないからさ、どんな人なの?」
リセが直球をぶちこんできた。
「ええー…」
クソジジイです。
言えるか!
「あ、頭のいい人、かな」
答えると、リセとメ・ナーゴがきゃあきゃあと声を上げた。
同性が楽しそうにはしゃぐのを見るのはかわいいし好きだ。そのときの話題によるけれども。
「ふふっ、次。どういうところが好きなのかしら?」
あなたのお兄さんが蛇蝎の如く嫌ってるところです、アリゼー。
「なんていうかその…素っ気ないというか、つれないところ?」
「あら、意外。あなたに靡かない男なんているのね」
結構いると思う。
「頭が良くて、女性につれない…この時点でアルフィノに目はないわね、残念だわ」
「クールな切れ者…っていうと、うーん、アタシはよくわからないけど…百鬼夜行のカルヴァランみたいな?」
あの人もあの人で、妙齢の美女にあんなに露骨にアプローチかけられて袖にし続けているんだからちょっと趣味がおかしい。
男ばかりの海賊団というし、むしろブドゥガ式で女への興味自体がないのでは…と不穏な考えを起こしそうになったので、そっとなかったことにした。仮に本当にそうであったとしても、口を挟むべきではない。よそさまの性癖のことである。
「そもそも、私達の知ってる人?」
「まあ…うん、そう、かな」
「じゃあ強い?」
「ううん、戦場に出る人じゃないから」
「ならあなたの交友関係の中ではかなり絞られるわね?」
あっ。
「戦う人じゃないってことは、文官…いや、クラフターや商人のセンもあり得るわ」
「いや待ってみなさんもうこのへんで」
これ以上ほじくられてはいらぬぼろが出る。私は必死で止めた。
止めたのだが四人はニヤニヤしながら、ウルダハ錬金術ギルドのマスターが丁度条件通りだとか、グリダニア木工ギルドのベアティヌ先生は頭はいいけど人間に興味なさそうだから該当するとか、果てはこの間呼んだテンションのおかしい美容師さんはどうだとかそれはそれは盛り上がっていらした。
…最後まで聞いたが、我が思い人にかすりもしなかったのは喜ぶべきなのだろうか。
 
 * * *
 
「あのさ、ごめんね、ずいぶん冷やかして。いやじゃなかった?」
「あはは、いいよ。あのくらい気にしてない」
なんだかんだとカフェに長居してしまったので、用も済んだしラールガーズリーチへ戻ろうということになった、その帰り道。人のプライベートを肴にはしゃいだのを引け目に思ったのだろう、リセが声をかけてきた。
なに、謝るほどたいしたことじゃない。
「サンクレッドあたりならともかく、私には浮いた話がなかったからね。珍しいでしょ」
ちょこちょこと合意の遊びはするが、おつきあいまで行くと皆無だ。
「あなたがサンクレッドみたいに遊び回ったらみんなひっくり返るよ」
彼は彼で最近驚くほど女関係が静かになった。
皆なにも言わずに済ませているものの、原因は明白だ。あちこちで女を食い散らかしておいて、本当に気のある女に何一つ伝えられないままお別れとは、彼らしいと思うが不器用なことである。
…とはいえ、報われないのに弄ばれる女の怒りが今ならとてもよくわかるので、次に彼が同じことをやったら胃のあたりを狙ってえぐり抜くように腹パンする。
 
「……ねえ」
「うん」
「大丈夫?」
「なにが?」
「さっき、うまくいってないって言ったよね。つらくない…? さっきはふざけちゃったけどさ、アタシもアリゼーもヤ・シュトラも、ナーゴも、もちろん暁のみんなも、あなたの味方だから…だから、ね。
 だから…えっと、うまく言えないけど、一人で考えるのがもしつらくなったら、アタシたちがいつでも相談に乗るから!」
「ありがとう」
思わず笑みが浮かんだ。
リセはいつも率直だ。
ただ感じたことを言語にするのが下手で、今になってそれをどうにか表現しようとしはじめたせいで、具体的な方針の話がスローガンのようになってしまったりする。それで反感を買うことも多いのだが、私にはその賢しく考えないところが好もしい。
彼女はちゃんとわかっている。
「覚えておくよ。それでもしどうにもならなくなったら、その時にはちゃんと頼るからね」
「へへ…あなたの好きな人って、どんな人なんだろ」
そこばっかりは聞いてくれるな。
「きっとすてきな人だよね!」
クソジジイだよ!
 
「ところでクルルさんに聞いたんだけど、リセを好きだっていう解放軍の男の子の話はどうなんだっけ?」
「うっ…いや、アタシはそんな、何も言われてないし!」