目を覚ますのなら今のうち? わかっているくせに。


「やっぱり、連れては行けない?」
先回りをして当ててみると、あなたは無表情を崩してそれは驚いた顔をしたものだから。いつもそれが可愛くてついいじめてみたくなるのよ。
「わかってるわ。ねえブレード、私は全部わかってたわよ。あなたが隠してたつもりでいたこと。全部。表に柄の悪い男がうろついてたし、時々こっそりどこかに電話をかけてたし、それに、あなたはいつだって絶対に私の前で寝なかったじゃない。
 本当は私が及びもつかないぐらい、それはひどく暗くて深い場所に棲んでいる人なんでしょう?」
何年一人暮らしをしていると思っているのだ。その程度のことがわからないと思っているのか。
ああほら、そんな困った顔をしないでってば。
「…わかってるわよ。あなたのことぐらい」
私だって小娘じゃない。あなたが少なからず私を愛しているぐらいわかっている。
それだから、いざ自分の場所に帰らないとならなくなった今になって迷っているんでしょう。死と隣り合わせの夜の涯へ私を連れていくか、それともここで平和な記憶をすべて捨ててしまうか。

だけどね、そんなに甘い場所じゃないはずよ。
そんな風に悩むくらいなら、これ以上私に生ぬるい期待を持たせるぐらいなら、いっそ早く何も言わずに行ってしまえばいいのに。
「…ああ。帰る」
そう。それでいい。さあ早く。私の決心が鈍ってしまう前に。





ブレードは玄関の外へ一歩足を踏み出して、
「お前も一緒に」


ひどく強い力で私の手を取ったと思うと、有無を言わせず引っ張り出した。
降り続く土砂降りの雨の中へ。