・ この日に限り、全団員が仮装をすることとする。
・ 仮装内容は自由だが、ハロウィーン本来の内容からあまり逸脱しないものが好ましい。
・ 決まり文句を聞いたものは当然相手に菓子を与えること。
・ 菓子が切れたらその時点で仮装を解くこと。
・ 仮装のまま最後まで残っていたものの中からMVPが選ばれる(金一封あり)



暇だからっていったいなにをやっているんだと言いたいところだが、こんなのを企画書にまでまとめてリーダーに話を通し、全団員に通告したのは何を隠そうこの私だ。くだらない企画大好き。
いや、本当に脳ミソが腐るかと思うぐらい暇だったんだってば。





「ばあ」
「うわ! な…なんだそれ」
「言うに事欠いてなにはないでしょ、見た通りの幽霊ですよ。ジャパニーズホラー」
目の前に現れた私を見るや否や、バレルさんは身体ごと引いて思い切りびびった。なんだその反応、失礼な。
言った通り、この格好は所謂日本の幽霊だ。下ろした長い黒髪に左前の死装束。元々白い肌にさらに血色を悪く見せるメイクを施し顔を血糊で汚して、額にはちゃんと三角の…名称はわからないが例のアレもつけている。お約束。
ちなみにバレルさんのほうは吸血鬼。黒ずくめに立ち襟のマント、牙とつけ爪の小道具も手が込んでいて…なんというかはまりすぎた感すらあった。
「この企画はハロウィーンの仮装だろ。しかし言っちゃあなんだが本物も裸足で逃げ出す勢いで怖いなお前。元の顔立ちか?」
「要するにお盆でしょ、幽霊が一人混じっててもいいじゃないですか。それよりバレルさん迫力ないですねえ、背丈のせいかな」
「………。」
「………。」



「にゃあ」
「ぎゃー!」
今度は私が悲鳴を上げる番だった。
でもこればっかりは仕方ないと思うな!
「な、…なんで猫なんですかブレードさん」
細い身体のラインのよくわかるやはり真っ黒な服、ピンと立ったイエネコの耳と長い尻尾。手足に肉球つきの大きなグローブ。首輪に大きな鈴。黒猫。しかも私と目が合うや否やころりとその場で腹を見せて寝っ転がって、
…ああ、うん、言いたいことはわかりました。
「猫が」
「…はあ……」
誰か。
そんなことよりそれはグロ映像です、と言えるだけの勇気を私にください。



「リ」
リーダーですよね、と聞くことすら憚られるものがあった。
しかしいったい誰がやったのだろう。見事に身体全体を包帯でグルグル巻きにされ、眼鏡をかけた目元と思い切り不機嫌そうな口元だけがのぞいている。怖い。
「それは一体…どうなさったんですか」
「お前が私の頭越しにわけのわからん企画書を通したからだろうが」
「い、いやですねえ。書類はちゃんと見ていただかないと」
「ほうよく言った。書類上ではこれは戦闘訓練のはずだったな」
だって仮装ありのお祭りなんて書いたら絶対却下食らうと思って!
「いえそんな、あの、…いいじゃないですかそれ結構お似合いですよ」
「その台詞は喧嘩でも売ったつもりか。なら構わん、来月のお前の給料は半額だ」



………。
結局、MVPは最初から最後までトレーニングルームにいた魔女のママさんになった。
最後に可愛いの見られたから、来月の給料のことはこの際諦められ


…る、と思う。