バレルとが好き合っていることは割合周知の事実だった。
とはいえ仕事場ではろくに目も合わせず、話す言葉も過ぎるほど事務的で簡潔だ。という女は元から口数の多いほうではないので、それを差し引けば普通と言えるだろうけれど。
ならばなぜそれが知れたかと言えば、出先のホテルでごく当然のように同室を取っていたことを訝しんだ団員の一人がそれを尋ね、「あら、知らなかった? わりと前から付き合っているんだけど」と世間話のノリでカミングアウトが返ってきて仰天したという逸話による。
なににせよ自分には関係のないことではあるが。
少しばかり、聞いてみたいことはあった。
「なー」
「おう、何だママ」
「お前さ、連れてこねえの?」
「…なんでだよ」
「なんでっつうか、」
到底堅気ではない自分達のこと、いつかどこかで呆気なくいなくなってしまわないと誰が断言できる。離れることが惜しいとは思わないか。いや、自分でもきっと思わないのだろうけれど、もう少しこう、なんというか、淡白に過ぎるとでもいうのか、必要のない時は相手の一切をシャットアウトしているようにすら見える。
それはもう、彼らの関係を知らない者に恋人同士だと言ったところですぐには納得できないだろうほど。
言うと、バレルは楽しげに声を立てて笑った。
「そりゃあねえな。なんつうか…そういうのはねえんだ。説明に困るけどよ」
「あー、じゃあいいわ説明」
「いいのかよ」
元々特に聞きたかったことでもない。
話を打ち切って暫時黙っていたかと思うと、バレルは突然あらぬ方向に向かって話し出した。
「…なんつうかよー」
「結局話したいんじゃねえかお前!」
「ああそうだよ黙って聞いとけよ!
だいたい元はって言やああいつがプライベート以外じゃべたべたすんなってオーラ出しやがるから」
「…してえの?」
「してえよ! 当たり前だろ!」
この回答は意外だった。
というのは、必要のないところでいちゃつくなとは大概男の言うことだと思っていたのと、バレルがいかにもそういったことを言いそうに見えるからでもある。
「あーくっそ絶対あのアマ調子乗ってやがんな惚れたの俺だからって。最近冷てえと思ってたんだ覚えてろ帰ったら声枯れるまで泣かしてやる」
先ほどの余裕げな態度はどこへ行ったのだと問い掛けたくなる勢いで、見る間に様々な事情が漏れ出している。バックミラー越しに運転を任された団員の様子を伺うと、彼は居たたまれなげに視線を逸らしていた。自分は何も聞いていませんよとでも言うように。
運転手の仕事も大変そうだ。
本部に帰ったママとバレルを出迎えたのは、他ならぬだった。
「おかえりなさい、」
ふっと笑ってこちらに駆け寄ってくるその様子に、不機嫌な顔をしていたバレルは少し嬉しげに表情を緩めたが、
「ママ!」
にっこりと満面の笑みで彼女はバレルの横を通り過ぎ、ごく当然のように自分の腕に抱きついたではないか。
「……!」
(…てめえママ勘弁しろよ本気で! 俺今結構嬉しかったんだぞ!)
(知らねえよ! 手前の女だろどうにかしとけよ!)
見交わす視線は鮮やかなアイコンタクトとなった。
「つーか、なんでお前そんなバレルに冷たいわけ」
「ああ、…バレルって焦らすと可愛いから、つい」
「アレに可愛いって形容詞がつくのが信じられねえ。あたし」
「可愛いわよ。格好つけてるときなんて特に」
「趣味悪ィなお前!」