「ぎゃっ! 苦しい、ちょっ、やめ、死ぬ、死にます」
「おお、これはすまん」
 つい感動して、などと言いながらギニューさんは離してくれた。
 そういう間柄になって少し経つが、ときめくとかどうとかよりむしろ死の恐怖に直面するので、いきなり抱き締めるのはできるだけやめてほしい。私との実力差がどれくらいあると思っているのだ。
 悪名高いフリーザ軍のならずものにもかかわらず、普段は意外なくらい紳士的で気さくな人なのだが。
「人力で作れるものなんだな…キャラメルとは」
「ちょっとコツはいるけど、材料三つでできますよ」
 それでもやっぱり、よくわからない。
 
 今日は珍しくもちょっと機嫌が悪そうだったので水を向けてみれば、隠しておいたキャラメルを誰かに盗み食いされたらしい。
 そのへんの奴をかたっぱしから掴まえてアーンさせてみても犯人は不明だったとか。彼も部下も揃って甘党なのはよく話に聞いているが、何をやってるんだ宇宙の地上げ屋の幹部。
 オレのキャラメルが、とあまりに悔しそうにしているので、やむなく私は材料と鍋とヘラを持って台所に立った。
 とはいえ、私だってたいして製菓が得意というほどでもないが、渡した金属のボウルにうっかり穴をあけた目の前の人よりは、まあまあ、多少なりましなものができる。くしゃみの拍子に指が金属を突き抜くとは思わなかったので速攻スタメンから外れてもらった。
 できあがったものを一つ口に含んだと思うと、彼はそれは嬉しそうにお礼を言いながら抱き締めてきたというわけだ。骨が折れるかと思った。
「これを、それで、オレがもらっていいのか? 本当にか?」
「それはそうでしょ、ギニューさんに作ったものなんだから」
「そうか、うむ、ありがとう。しかし困ったな」
「何ですか?」
「こんなに美味いものをもらってしまったのだ……くっ、部下達にも分けてやりたいが、一つたりともやりたくない」
 大の男がお菓子ひとつで大真面目に悩む姿を見ていると、付き合い出してから何度も何度も思ったことだが、本当に不思議になってくる。悪辣非道で有名なフリーザ軍の幹部…の、はずなのだけど。
 そんなことを考えていたら、また作ってあげますよと言い出す前に、ふと彼の目の光が変わった。
 無骨な手で私の手を掴まえ、するりと互いの指を絡ませて、ギニューさんは不意にそれらしい¥ホい方をした。
「そうだ! いいことを考えたぞ」
「え」
 
「オレのよりもこんなに小さくて器用な手なら、ずっと美味いお菓子が山ほど作れるだろうな?」
「えっ」
 これは体を狙われているのだろうか。いや、暗喩ではなしに。
 身の危険にゾクゾクしたらいいのか、それともドキドキしていいのか。なんで恋人に手を握られてこんなことで困惑しているのか本当に意味がわからない。
 
「あの……なにを」
「興味が湧いたぞ、お前の体に」
「そ、それだったら!」
 ここで引くのもなんだか癪に障る。
「食べたいものくらい、いつでもいくらでも作ってあげますよ。それなら何も変わらないでしょ」
 冷静になって考えてほしい。慣れない体でいちから覚えるより絶対私が作った方が合理的じゃないの。
 そういう意図で言ったはずだった。
 
「…い、いかんぞそんな、こんな唐突にプロポーズなどと。もっと自分を大事にしなさい!」
「私の話のなに聞いてたんですか」