「そういえばギニューさんって、歳はいくつぐらいなんです?」
「どうした、急に」
「ちょっと気になっちゃって」
 
 本当に唐突な話だが、つけっぱなしにしていたテレビで歳の差恋愛がテーマのドラマをやっていて…特に詳しい内容も知らないそれをぼんやり眺めながら、ふと思った。
 考えてみたら私は恋人の年齢を知らない。
 立場と話しぶりから見てだいたい壮年くらいかなと予想はしているものの、今まで本人からは教えられていない。私はギニューさんの話を聞くのが好きなので、聞いたことがあればだいたい覚えている。
「ああ、確かに話したことはなかったな。少なくともこの体はフリーザ様が軍を継がれる前から使っているが…どれくらいだったか」
「そっちかあ」
 それはそうだ。
 ギニューさんは体を取り替えることができる、そうなると肉体のほうの年齢はアテにならず…かといって中身、つまり彼の精神がどのくらい前から存在しているのかと思えば、これはさらにややこしくて予想ができない。
「ギニューさんって子供の頃とかあったんですか」
 連想にまかせてなかなか失礼な質問だったと思うが、彼はもちろんあるぞと頷いた。
 どんな子だったんだろう。やっぱり今みたいに優しくてお茶目だったのか。ひょっとしたら担任の先生の信頼も厚い学級委員長でもやっていたのかもしれない。
 しかし聞いてみると、赤い目をふいと逸らして、気まずそうにごにょごにょと口の中で呟き出した。
「…その、それがな」
「はい」
「ガッカリするなよ? 昔のオレはひどいクソガキだ」
「ええ…?」
「当時はこのチェンジ能力に目覚めたばかりで、なんだ、つまり、だいぶ調子に乗っていたというか、だな…」
 口篭るギニューさんから強引に詳細を聞いて、私は思わず笑い出してしまった。
 クラス一のお金持ちの子と体を取り替えて、女の子を侍らせて遊んでいたなんて! 今からはとても予想がつかないじゃないか。
「それでどうしたんですか」
「どうもこうも。自分で掴んだものでもなし、バカバカしくなってすぐにやめちまった」
「あはは、そういうとこはあんまり変わってないんですね」
 当初の目的はよくわからなくなったけど、おもしろい話が聞けたからまあいいか。
 ついでに納得もした。ただ欲望に忠実に生きたいならいくらでもできるだろうに、それをしないで組織の中で働いているのは、たぶんその経験があったからだ。
 どこからどこまで通用するのかは知らないが、それこそ宇宙の帝王に成り代わることだってできそうな身で。
(うん、やっぱりそういうとこ好きだなあ)
 彼が明日いきなり別の体で会いに来る可能性も案外なくはない。ないけど、まあそれも含めておもしろそうだ。
 
「……そういえばサウザーにくだんの一件の口止めを忘れていたな。今度会ってよく釘を刺しておこう」
「そ、そんなに恥ずかしかったんですか。子供の頃の話でしょ、もう時効ですよ…」