重い荷物を動かす必要があるとき、人はどうするだろう。
自力でどうにかするのか、道具を使うか、自分より腕力のある他人に頼るか。細部はともあれおおむねそんなところだと思う。
「…おもい……」
そのどれもが、今自分の体の上に覆い被さって熟睡している彼氏をどうにかするには不向きであった。
わりと詰んでいる。
ことの発端は、ギニューさんがどうも極限まで疲れていたようで、部屋に来てそうそう私を抱え上げ、文字通り寝室に持ち運んできたところである。
そういうことをするならいやがったりしないが、まさか服に手をかけたまま睡魔に負けて、あげく人を潰すと思わなかった。完全に油断して逃げ遅れてしまった。
呼びかけても揺さぶっても叩いても返事は寝息だけ。自力でどかそうにも、この筋肉の塊のような巨漢をとても私がどかせるわけもなかった。完全に体重をかけられたらもっと重篤な潰れ方をしていたはずだ。
気を許してくれるのはうれしいが、さすがに限度があるだろう。
「ぎっ…あと、もう、ちょっ……よしっ!」
なんとかもがいて片腕だけを引き抜いたはいいが、そこから先はもう無理だ。うんともすんとも動かない。
「こんなことならギニューさんが言った通り、もうちょっと鍛えておくんだった…」
それを提案した彼氏のせいで今こうなっているのだが、しかし、ちょっとやそっと鍛錬したところでこの紫の岩のような体躯がどうにかなるかは疑問の余地が残る。本当にこれが人体なのかと疑うくらい固くて重い。
「……。」
見れば見るほど、このままゆっくり眠っていてほしい気持ちは強くなる。私をいつもこれ以上なく大事にしてくれる恋人だ。わざわざ安眠妨害などしたくはない。
ないけど。
何せさっきからトイレに行きたくて仕方ない。
ここで尊厳を失うよりは彼氏をたたき起こしたほうがましだ。
「ごめん! ギニューさん!」
攻撃は思い切りが肝心だと彼自身が言っていたことがある。
私は熟睡する彼に思い切りよく鼻フックを食らわし、跳ね起きたところで背を向けて素早くトイレに駆け込んだ。
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