「そうだ、赤い果実が食べたいですねぇ」
「赤、ですか?」
窓の外の星雲から少し視線を外してフリーザ様が頷いた。
雇い主はたまにこうして、当ててみろと言わんばかり、謎かけのような注文をつけてくる。
とはいえ、それに応え切るだけの対価も十分以上にもらっているから私としては不服はない。今日のは簡単な方である。
「赤ですと林檎か苺、ベリー類、柘榴、それから」
「ああ、林檎ではいけません」
中が白いでしょうとフリーザ様は続けた。
「わたしは中の赤いものが食べたいんです。流れ出たばかりの血のように、裂かれた腹から溢れるはらわたのように、どす黒いほど真っ赤な果実が」
「かしこまりました。調達して参ります」
「楽しみにしていますよ」
ぶっそうな比喩と共に、雇い主はそれこそ血の色の瞳を愉快そうに細めて微笑む。
一礼して笑い返し、私はそのまま司令室を後にした。ちょうど明日から休暇が控えていて、いまはそれが明けたあと何をお出ししようかとリクエストを聞いていたところ。
さて、どうしたものか。
軍の宇宙船内部を歩き、割り当てられた自室に戻る。
休暇はわりとまとまった日数を取れたのだから別段今考えなくてもかまわないが、私は仕事が好きなのだ。特に今の上司とは意外に馬が合って、今日のように料理の謎掛けなど出されると、ああしようかこうしようかと暇になるたび考えを巡らせてばかりいる。
なにせフリーザ様は必要ならいくらでも経費を認めてくれるし、個人の専属だから一般受けするように味を調整する必要もない。これ私には案外気楽なのだ。
所属こそ悪名高いフリーザ軍ではあるが、そういった世間様の評判とはとくに関係なく、この職場は肌に合う。
とても幸運なことだ。
* * *
地球に戻って休暇を楽しく過ごし、宇宙船に荷物を積んでまたフリーザ軍の艦に戻る。このルーティーンにもそろそろ慣れた。
答え合わせのお時間だ。
血のようにどす黒い、赤い果実。苺やダークチェリーでもお叱りは受けないだろうが、もう少し相応しいものがある。
「確かに血の滴るような赤ですね」
「ブラッドオレンジというものです」
外見は普通のオレンジ、皮を剥いてみればまさに血肉を思わせる赤。今は普通に剥いた果肉だけを出しているが、調理したものはソルベとマーマレードだ。夕食のサラダと、肉料理のソースにも使っている。
「産地へ飛んで、もっとも赤みの強い種を選んでまいりました」
「それはご苦労さま」
フリーザ様の態度はさらりとしている。
いかにも当然と、そんなもの口に出すまでもないと言わんばかりの言動ではあるが、よく観察するとわかる。大事に手をかけて仕事をこなして、彼のためだけに美味を供すると、あのしなやかな長い尻尾の先が少しだけ、波打つように震えるのだ。
ご機嫌の良い時にだけ見られる癖。
それを私の腕で引き出せるのは、なんとも言えない快感がある。
「色も味もなかなかです。あなたの腕でこれがどう化けるか…ふふ、夕飯が待ち遠しいですよ」
「ありがとうございます」
食事の必要性が薄いフリーザ様にこんなことを言わせるのだって、なんともたまらないじゃないか。
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