・行為のシーンはありませんが、フリーザ一族の体の構造について描写があります。両性具有です。ご注意ください。
初夜を迎える花嫁は、もう少し幸せな悩み方をしているものではないだろうか。もちろんそれは自ら望んだ結婚であることが条件だが。
望まない結婚とはいえ、少なくとも私の場合は相手がきらいなわけではない。
故郷を爆破された件はもちろん恨んでいるし、そこに関しては許す日はたぶん来ないけど、まあそれはそれとして。普通に付き合う分にはわりと好きだ。第一彼にけっこう長く雇われていられたのだから、嫌いどころかむしろウマが合っていたといえる。雇われの料理人でいる分には過不足ない間柄だった。
だが、ことが結婚では話は別になってくる。
繰り返すが、新婚初夜。
この際私の好悪は置いておくとしても、そういうことをするためのあれそれが見当たらないではないか。体のつくりすらよくわからないのに何をどうしたらいいんだ。
「どうしました、そんな暗い顔をして」
「うわっ」
悩んでる間に来た。
「いえ、あの…なんでも…」
あらためて、上から下までじっくり眺めてみる。
いくら宇宙人でも、他人様の体をじろじろ見るなんて失礼すぎるのでこうなる前はしたこともなかったが、今なら別にかまわないだろう。
他のいかつい宇宙人どもと比べれば本当に小さくて細い、つるりとして無駄のない流線型の体。私達地球人を下等と呼ばわるのも、ちょっとはわかるというものだ。
……問題は、生殖に必要なものすら見当たらないほうだが。
(これ聞いていいやつなの? いや聞かなきゃ何も始まらないけど、でもなんて聞いたらいいの?)
そもそも私の疑問は、フリーザ様がどういう生き物でどう殖えるのか、その時点からだ。こうなる前に聞いておくべきだったがいまさら言っても遅い。
「あなたでも腰が引けたりするんですねえ」
こちらがじっと黙っているのをどう捉えたのか、フリーザ様はベッドの横に腰掛けて顔をのぞき込んできた。
腰が引けているのは事実にしても、むこうはむこうで余裕なものだ。
「もしかして生殖は初めてでしたか?」
「なんて言い方するんですか。いや、まあいっか…宇宙人とは初めてですよ。ええと、それでいくつか聞いておきたいんですけど」
「いいですよ、なんでもおっしゃい」
「生殖行動、でいいのかな…を、するにしても、どうするんでしょうか…」
これしか言いようがないとはいえ、仮に部下がこんな質問をしてきたら少し注意しないといけないレベルの、ものすごく抽象的であいまいな質問になってしまった。
地球人についてる器官でことは足りるんだろうか。
万が一産卵管が必要だとか総排泄孔でないと駄目だとか言われたら、たぶん正気でいられない。どことなく鳥やトカゲっぽいしこの人。
「ああ、そんなことですか。大丈夫、あなたたちの行為とそこまで変わらないと思いますよ」
「本当ですか!?」
「ええ。だいいち、下等なヒューマノイドでは私達の一族と体のつくりが違いすぎて交配は不可能ですから。生殖とは言っても、要は快感を共有するコミュニケーションです」
「今下等って言いました?」
相変わらず息をするように他種族を見下してくる。
いや、そんなことはこの際どうでもいい。無茶なことを求められる心配はなさそうだ。ひとまずそこは安心できる。
問題は次だ。
「それじゃあ…」
自然と下腹部に目がいった。
「その、つまり…せ、生殖器、は、どこにあるんでしょうか…」
なんでこんなことを聞かねばならないのかとへこむ間もなく、私はとんでもないものを見る羽目になった。
「ここです」
「ヒッ」
この恐怖をどう表現したらいいのだろう。私は口を押さえて、頑張ってほとんどの悲鳴を飲み込んだ。
私の語彙では詳細に語ることは不可能だが、擬音的表現をするなら「ぐぱぁ」と下腹部が割れ、その深いスリットからはたしかに男性器と思わしきものが顔を出した。しかし表面もスリットの中の粘膜も、地球人の感性ではちょっと驚くような紫色。
形状もなんというかその、えらく凶悪な、釣り針に似た返しがついている。
えっこれ入れるの、本当に、と生々しい想像をしてしまったが、それに留まらずフリーザ様はさらにとんでもないことを言い出した。
「こっちもありますよ」
「こっち…?」
どっちよと疑問が勝って、心の準備もなしに目をやってしまったのが運の尽きだ。
下腹部からさらに下、両脚の付け根のつるりとしたところを同じようにぐいっと押し広げると、なんというかその、地球人女性のそれと似た、その、なんというか、おそらく女性器が口を開けているのが見えた。見てしまった。
今度こそガチトーンの悲鳴を上げてベッド端へ逃げた。
「おや、そんなに怖いですか?」
「怖いに決まってるでしょ! フリーザ様どういう生き物なんですか!」
「両性具有というやつですが、地球にはいないようですね」
「いませんよ!」
いてたまるか。
せめて事前に知らされていれば、まさかひとさまの体のことに悲鳴を上げるなんて失礼はしなかったが、こんなのいきなり見せられたらそりゃびびる。私がなにをした。地球人男性のにしても見慣れているわけではなかったのに、どうしてこんな目に合わなければいけないのだ。
動いてもいないのに脳味噌が疲れて頭が痛くなってきた。もう何もかもなかったことにして、趣味は悪いが上質のあたたかいお布団にくるまってぐっすり眠りたい。
無言で実行に移すと白い手が伸びてきて、有無を言わさぬ勢いで柔らかい布団を引きはがされた。
短い安息だった。
「考えるの疲れましたよ、また今度にして寝かせてくださいよ…」
「私がどれだけ待ったと思ってるんです。第一、先延ばしにしてもどうせいつかはすることでしょう」
それもそうだ。逃げたところでしょうがない。それにしても慣れる時間くらいは欲しかったけど。
「はあ…もういいや。私の心身の安全を深く考慮したうえで、お好きにどうぞ。うっかり骨とか折らないでくださいね」
「努力はしましょう」
そこは確約してくれないと困る。いっそ私のことは食パンだとでも思ってほしい。
「あの、しつこいようですが、最後にひとつだけ!」
「…人さまの顔を押し退けるんじゃありませんよ。なんですか。往生際の悪い」
「……で、できるだけ…ゆっくり、して、くれますか…」
フリーザ様は少し驚いたようにこちらをじっと見つめ、口元を押さえて視線を逸らしたあと、大きく溜息をついた。
「たった今、ちょっと自信がなくなりました」
どうして!
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