フリーザ様と孫さんと悟飯くん。それから初対面の微妙に可愛くないネコと、ちょっとなよっとしたお兄さん。あと私。
以上メンバーで構成された話し合いの場は混迷を極めた。
「やっぱおめえフリーザにここに連れてこられたんか?」
「はは…まあその、はい、原因は孫さんだったんですけど…」
「あなたの情報でも聞き出せればと思ったんですがね、とんだ無駄骨でしたよ。そのうえ破壊神まで噛んでくるとは…」
「フリーザ、お前どの口でそんなこと言ってる。この場で破壊されたいのか」
「……も、申し訳ありません、ビルス様」
「わあ、フリーザ様が頭下げる相手ってこの宇宙にいたんだ…ええと、そちらの方…ビルス様、ですか? お茶菓子はカップケーキとチョコレートとどっちになさいますか」
「あー、うん。ボクはチョコ」
「わたくしにはそっちのカップケーキをくださいな。ピンクのクリームの乗ったやつを。あとお紅茶は少し甘めでおねがいしますね」
「かしこまりました」
「オラは飯のほうがいいなぁ、ハラ減っちまったし」
「父さんまで話の腰を折らないでくださいよ」
「人の鑑で食事をたかるなどどういう躾を受けたんですかね、この下品な猿は」
「孫さん、話が終わったらご馳走しますから」
そもそも話題があちこちに飛んで跳ねて話し合いにもなっていないが、把握したかぎりでは、このネコとお兄さんはフリーザ様でも適わないほど強くて偉い…なんと神様だそうで、ちょっとした話の流れで私の料理を食べたくなって探しに来たらしい。
すごい話だ。現実感はないけど。
「つまり…私を地球に連れて帰ると」
「そうですよ、家に帰れるんですよ!」
悟飯くんはよかったですねと力強く頷いたが、やっぱりなんだか現実味が薄い。
さっき聞いた話によればこれだけ長期間の行方不明だ、家族も憔悴しているようだし、帰らない選択肢はもちろんないんだけど。それにしても今というのは予想していなかった。戸惑いのほうが強い。
急展開に慣れようと頑張ったら、地盤が固まりかけたところでまた急展開だ。
それにしても、今やってる仕事どうしよう。
まだやることは山ほど残っているのだ。いくら何でもこのままはいさようならは抵抗がある。いや私だけなら困らないけど。ほんの一時部下だった皆さんがどれだけ困惑することか。
「あの、フリーザ様」
「……なんですか」
「か、紙とペンください! 今から詳細な引継ぎは無理でも、ざっと要点をまとめて書き出しておきますから! 恐れ入りますビルス様、一時間だけ待っていただけませんか!」
「律儀ですねあなた、ちょっと待ってなさい」
三十分で仕事の要点をまとめて、二十分で厨房に駆け込み、帰らなければならないと説明を入れて、後任を指名し、あいさつもそこそこに残り十分で数少ない私物をまとめてダッシュで戻ってきたのだから自分を褒めたい。メチャクチャ慌ただしかった。二時間と言っておけばよかった。
なお、私がじたばたしている間にフリーザ様は今月分の勤務日数からお給料をまとめておいてくれた。ありがたいことだ。
「あなたは…」
「はい」
「いい仕事をしましたよ」
「……ありがとうございます」
帰るならさっさと行けと言わんばかりに、白い尾がしゅるりと揺れる。彼の背にひとつ頭を下げて、私は暢気にお茶を飲んでいたビルス様の方へ足を向けた。
地球では使い道のない通貨をどうするべきだろうかと、そんな益体もないことを考えながら。
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