「金をつくるのに必要なエネルギーは、銀河の衝突クラスだと聞いたことがあります」
雇用主は椅子に深く腰掛けたまま、視線だけで話の続きを促した。
「金は完全の象徴。このスープもまた、深い黄金色とその圧倒的なまでの味から完璧≠フ名をつけられております」
「それはまた、ずいぶん大口を叩く…しかし実にあなたらしい。今まで、口に見合うものを出し続けていますからね」
ひとまず信用しましょうと笑声を立てるフリーザ様にくすりと笑い返す。
「そう言っていただけて光栄ですが、今回はビッグマウスとは呼べないかと。名付け親は私ではありませんので」
思えばこの雇用主も、パワーアップの際には金色に光るらしい。
このあいだ孫さんにスーパーサイヤ人とかいうのを見せてもらったが、それを期に悟天くんやたまたまその場にいたトランクスくんまで、オレ達もできるぜ見て見てと変身を見せてくれた。しまいにはにいちゃんもやろうよと悟飯くんも引っ張られていた。
なんでも変身するととんでもなく強くなるとか。すごいと思うのだが、私には誰が誰より強いとかよくわからない。みなさん本当によく光るなあとか、真っ暗な中でも電気がいらなさそうだなあとか、そのくらいだ。
話は逸れたが、金とはやはり特別なものだ。
味に味を重ね、余計なものをすべて削ぎ落として、極限まで澄み切ったスープ。
コンソメ。すなわち完全の名を持つそのスープは、純白の皿の中で深い黄金色を湛えて輝いている。
「おや、具は…」
「もう入っております」
「あなたでもそんな謎掛けのようなことを言うのですね」
「失礼いたしました、言葉遊びをするつもりはございません」
正確に言うなら、ここに至るまでに一抱えもある鶏のガラや香味野菜をしこたま手間をかけて仕込み、卵白で合わせてまた長く煮込むという、本職の手にも面倒な行程がある。それを裏漉しして完成品だ。
具はすべてこの澄んだ金色の中に味として溶けている。
「味わえばわかります。私の言わんとすることが。
今くどくどと説明を垂れ流してもスープが冷めるだけですので、まずは、どうか一口を」
銀器が金を掬い取り、唇へ運ぶ。
音もなくスープを一口含んだ途端、フリーザ様は思い切り目を見開いて口を押さえ、動きを止めた。
「いかがでしょう」
答えは返らない。
一言も発さないままゆっくりと、しかし白い手が止まることもなくスプーンを動かし続けて、やがて皿がすっかり空になってから、雇用主は手の中のカトラリーを置いた。
「……息の分の味すら惜しいと感じるなんて、初めてですよ」
「ありがとうございます」
体を深く折って一礼する。
今作れる最高のものを出せというオーダーに、満を持して出してよかった。二日ほどかけた価値はある。
この方の舌ならば味がわかると思っていたが、それにしても、なんてことだ。
しびれるくらいに素敵な一言をくれるじゃないか。
その人の未だ知らぬ美味で、取り澄ました顔を突き崩す。料理人としてそれに勝る喜びはないというのに。
「これが、この数日をかけた結果ですか」
「はい」
「いいでしょう」
「えっ」
「星をひとつあげますよ。特別ボーナスです」
「……えっ!」
いくらなんでも冗談だよねと思ったが本当だった。
そのようなわけで、今私の机の引き出しには惑星の権利書が入っている。
どうしよう。
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