女の玉肌と重なると、引き締まって浅黒いマゼンタの体はよく映える。年齢に応じて多少下腹に弛みは見られるがそれもまた味というものだ。
 柔らかく甘く濡れた肉の感触、抵抗なく男の杭を咥え込みしゃぶりつくような極上の具合は、自分が手ずからよく仕込んである。文句など出るはずはない。事実、時折肌に吸い付いて赤い痕を残しながら、マゼンタは上機嫌で行為を続けている。
 男の体の下でとろけそうな声を上げる媚態に見入るふりをして、カーマインは男の要素すべてを記憶せんとばかり、視線だけで食い入るように見つめていた。
 腹の奥に蟠る熱を気取られないよう吐いた息が、ひどく熱い。
 
 室内に籠った熱と男女の体臭に、甘いシガーの匂い。
 行為が終わってすぐ、まだ息も落ち着かない女の頭を胸に乗せてやりながらマゼンタはふと笑った。
「しかしきみ、今日は随分乱れたじゃないか。やはり見られていると興奮するかね?」
「そんな…もう」
 彼女は恥じらうように逞しい胸に顔を埋めた。
 行為の最中に部屋へ入った回数は一度や二度では利かぬほどだが、他に予定がないならそのまま見ていろと言われたのは初めてのことだった。彼女があきらかに狼狽する様子にマゼンタはかえって燃え、自分の立ち位置からよく見えるよう愛人の脚を抱え上げた。
 まったく趣味の悪い男だ。そこが好いのだが。
「総帥はいじわるがお好きなんですから」
 やんわりと拗ねてみせる女の視線に、恥じらいが全く含まれていないことを自分はよく知っている。
 レッドリボン軍総帥の愛人ともなればそんな初心なタマでは務まらず、また、マゼンタ自身もその程度のことなど分かったうえでかわいいと相好を崩しているのだから、見ようによってはたいそうな茶番であろう。
「ははは、まあいいじゃないか。他のやつならまだしも…おお、そうだ」
 ふと顔を上げた主の目線は、まるでたちの悪いいたずらを考えついた悪童だ。
「たまにはお前も一緒にどうだ、カーマイン。見てるだけというのもたまらんだろ、悪いとは思ってるんでな、これでも」
 なあに、遠慮することもない、私とお前の仲じゃないか。などと。さすがに愛人の表情が引きつったのを意にも介さぬ調子で提案は続く。
 知らずのうちに口元に笑みが浮かんだ。
「よろしいなら、有り難く」
 まさに願ったり叶ったり。
 大股に部屋を横切り、上着を脱いで、早急に首からタイを引き抜く。
 主人を後目に、愛人のほうはもの言いたげな顔で自分の所作を見つめている。この分ではいつものように内心ドン引きしているのだろうが、マゼンタの公認で、直後に同じ女を抱ける機会だ。
 カーマインが乗らぬはずがないと彼女はとうに解っている。いまさら遠慮してやる義理はなかった。
 スラックスを落とし、女の足首を掴んでぐいと割り開いた。
「ひゃっ!」
「大人しくしてろ」
 つい数分前まで男に抱かれていた痕跡。充血して赤みを増した肉のあわいから、白く濁った精がとろとろとこぼれ出してシーツへ伝っていた。思わず笑みが深くなる。
 十分に硬度を増した己のものを一息に押し込むと、まだ性感の余韻が残る女の背が弓なりに反り、爪先はぴんと伸びて震えた。
「あ、っ! …う、動かさ、ないで…はっ…あ、あ、んぅッ……」
「おい、そのサイズを全部一気にってのはさすがに」
 二人から同時に上がった制止の声をカーマインはあっさりと無視した。脳髄が灼けるような愉悦を気取られないよう表情を消したまま、脚を持ってごりごりと抜き差しを繰り返す。女の白い下腹部がひくつき、目に生理的な涙が浮かんだ。
「あ、あっ…ひゅっ、カ…マインさ、くる…しい」
「我慢しろ」
 一応これでも手加減はしているのだ。
 マゼンタはさすがに引いたようだったが。
「お、おう…お前、意外とえげつないことをするな…」
「そうでしょうか」
「それはそうだろ」
 世話役としての付き合いがある以上、いくら何でもそれなりに丁寧に抱いてやると思っていたのだろう。世辞にも善人とは言えないが、この男は不思議なところで常識がある。
 こいつのはでかいから苦しいだろう、かわいそうにと何度もキスを繰り返し、髪を撫でて女を宥めてやる様子には多少腹が立たぬこともない。
 許可を出したのは自分だろうにとむっとしながらひときわ強く腹の奥を抉ってやると、横合いからお前最近いやなことでもあったのかと見当外れの気遣いが飛んできた。
 雇い主にはわからぬだろうが、機嫌のほうは最高である。