何がどうしてこうなったのか、こまかい流れなど覚えてはいないが、前後のいきさつはなんでもいいかと流せたような空気であることは確かだ。
そうでなければ、普段は自分と同じものぶら下げた野郎に触られるなんざ、ゾッとしない話だ≠ネどと言ってはばからない男が、まさか自分とこんな行為に耽ることなど考えられない。
絨毯の床に膝をついたまま、喉まで咥え込んでいた怒張だけを口から離す。
「総帥、いかがです…?」
唾液と先走りをまぶされてぬらぬらと光りそそり立つそれは、先端や血管の浮き出た幹に口付けるたび、太い裏筋を舐め上げるたびに脈打って震える。愛する男に自分の奉仕で確かな快楽を与えている実感に、カーマインは陶然と目を細めた。
「ん…ああ、良い。しかしお前、やたら慣れちゃいないか」
そっちの趣味があったわけでもないだろうにと、マゼンタが苦笑いを零す。
「ハ、まさか…教えたことならありましたので」
「そういやそうだな」
私生活から入念に管理して、ベッドでの技量まで丁寧に仕込んで差し出した愛人の顔がふと頭にちらついた。
あれはこんな時まで役に立つ。もしも聞かせたら、ていのいい言い訳に使うなとまたぞろ皮肉のひとつも飛んできそうなものだが、当人はこの場にはいない。
酒に付き合うのはいつものことといっても、そもそも彼女の存在がなければ、今夜のように共通の女についての猥談になることはなかったろう。
ベッドでの振る舞いがどうの、どこを責めるとたまらない声を上げて善がるだの、奉仕に耽っている時の蕩けそうな表情がどうだの、そんな程度のことから始まって、話はいつの間にか互いの技量のほうへ滑っていった。
男同士ではそうした見栄を張り合うのもめずらしい話ではないが、常の自分であれば適当に乗った上で流していたはずだ。
それが今夜にかぎって気が付いたらこんなことになっていたのは、まさしく魔が差したと言うほかない。
再び下腹部に顔を埋め、はち切れそうな剛直を飲み込んでは厭らしい音を立ててしゃぶりつく。長い付き合いでの気安さがそうさせるのだろう、マゼンタは口の端に葉巻を咥えたまま、心地好さそうに声を漏らしてカーマインの頭を撫でた。
「ん、うぅ…」
「おお、よしよし。お前ともあろう男が…まるで犬だなあ?」
そんな言い方をするくせに、撫でる手も見下ろしてくる目もどこか加減が見える。
女好きを公言するだけあって、マゼンタは色事においては百戦錬磨といっていい。スタミナも技巧も群を抜いているが、この男はなんだかんだと自分に服従する相手は手酷く扱いきらず、どうしても甘やかしがちだ。
そこが好い。
今も見下ろしてくる視線の、たまらない甘さと男の色気ときたらどうだ。
ろくに触れられてもいないまま、カーマインは体がますます熱く滾るのを感じた。
男相手の経験などないが、いっそこの腹の奥に、この鉄のように熱い杭を埋め込んでしまえたらどれだけ良いか知れない。あなたに抱かれることが叶うなら自分の体ひとつのことなど構うものかと、力ずくで覆い被さってしまいたくなる。
(まだだ)
熱情にとろけそうな頭の隅でアラートが鳴った。
何一つ伝えていない今、多少のイレギュラーが起きたからといって調子に乗るには早すぎる。
まずはこの一夜が特になんでもないもののように、つとめていつも通りに振る舞うほうがよほど肝要だ。
「ん…あぁ、本当に上手いもんだ」
「あれの教育をしているうちに…自然と覚えました」
「お前はできた世話役だよ」
あくまでも冗談混じりに。
口を離しているときには手で、怒張の根本から先端までを滑らかに擦り上げる。愛人の具合を調整するかたわら覚えましたよという顔で。
いずれ妻にと約束した女からはそんな機械のメンテナンスみたいに≠ネどとブーイングをくらったが、やはりやっておくに越したことはなかった。なにせ己が最優先するのはこの男の満足である。無論、彼女も同じではあろうけれど。
「カーマイン、もういい、そろそろ出…おい?」
己の口の立てる湿った音に混ざって静止が聞こえたが、カーマインはあっさりとそれを無視して、舌の上でぐっと膨張し始めた亀頭冠を喉まで押し込み、吸い上げる。
下腹がびくりと震え、どろどろと熱いものが勢い良く口腔内にしぶく。ひどい苦みと海棲生物を思わせるような生臭さにさすがに眉を顰めながら、唾液と混ぜて二口ほどを飲み下した。
「フーッ…いや…お前なにも、飲まなくても…」
「…問題ありません」
口に残ったままの精液をハンカチへ吐き出しながら、次に婚約者を抱く時にはこれを飲むことを強いるのはやめておこうとカーマインは思った。
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